探偵と旅館の座敷童子(後編)
時刻は22:00を回った。女将である鈴江曰く、
この時間からコウくんと呼ばれる
その子は現れ始めるらしい。
「そろそろコウくん、現れますかね」
畑瀬が恐る恐る聞く。
「なんだか面白そうだな」と
子供のような笑い声を見せ、部屋を暗くした。
しばらく沈黙が続き、それに
耐えきれなかったのか稲荷丸は口を開く。
「なあ、メグちゃん」
仰向けの状態で畑瀬は答える。
「どうしたんですか?」
「ずっと見られてる。
上から見られてる気がするんだよ」
冗談めかしく畑瀬は、
「何言ってるんですか、そんなわけ」
とそちらの方に目が行った途端、
濁点のつくような声を出した。
小さな男の子が寝ている稲荷丸の真上にいる。
それは見下すような形で
ただ稲荷丸を見ている。
「こんなに分かりやすいもんですかね」
「コウくん、本当にいた」
その途端、卓上に置かれたはずの
稲荷丸の携帯が勝手に浮き始めた。
姿が確認できないためだ。
その影響でスマートフォンは光を放つ。
「稲荷丸さん、スマホ!」
それを黙視した稲荷丸は起き上がり、
「俺のスマホを返せ」といかにも
子供のような立ち振る舞いで、
スマートフォンを掴もうとする。
それは正確に文字盤を打っているようだ。
何度も何度も数字が打たれていく。
「俺の携帯、壊れるだろ 0531」と
稲荷丸は遂に暗証番号を吐いた。
畑瀬はおお、と声を漏らすように言った。
「これで満足だろ、コウくん。返してくれ」
と息を荒げながら起き上がる。
一向に返してくれはしない模様。
「透明人間が多い、この前も透明人間だ」
と彼は文句を言い始める。
「オカルトって大体が透明ですからね」
と畑瀬は冷静に言う。
「ほら、返せ。ほら」
と両手を臨戦態勢のままで稲荷丸は言う。
「ねえ、ねえ、稲荷丸さん」
「ねえってば」と畑瀬は声をかける。
「なんだい」
「渡り廊下に誰かいます」
え?と疑問を浮かべながら彼は
その態勢のまま、渡り廊下へ向かう。
一瞬で引き戸を開け、廊下を見ると
そこにはバケットハットを
被っていない虎雄がいた。
「うわ、虎雄くん、何故ここに」
「ちょっと待って、集中」
それでもスマートフォンは
灯りのついたまま浮かんでいる。
「河童!!!!」と勢いよく虎雄は唱えた。
すると、布団が収容されていた押し入れが
ギシギシとなり始め、その天井裏も
ミシミシと音を立てた。
その隙間から細長い木の箱が出てきた。
それはスマートフォン同様浮かんで
虎雄の手元へとやってきた。
畑瀬は口を開けたままその様子を見ていた。
「これは、、」と稲荷丸が問いかける。
「これは河童の腕の木乃伊さ」
「こんなものが、何故菊の間に」
と畑瀬は問う。
その突如、女性の野太い声が聞こえてきた。
「開げるな」と。その正体は白髪が肩下まで下がった鬼の形相の女性だった。
「やっぱり山姥か」
渡り廊下で稲荷丸と虎雄は
片手を顔の位置まで持ってくる。
「がえぜえ、ゴウぐんをがえぜえ」
こちらに長い爪を生やした
山姥が襲い掛かろうとした瞬間虎雄は、
「稲荷丸くん、ここは
君の出る幕だよ」と言い、
稲荷丸は強く、その片手を地面に押さえ込む形で手を動かした。
その後にどこからともなく
無数の紙垂が建物内に入り込んできた。
それは集まり、とぐろを巻いて
山姥の顔面を圧倒した。
「おーすげー」と虎雄が言う。
これまでだ、と山姥がその場に
倒れ込むと紙垂はゆっくりと元通りになり、
本来ある場所、建物内から消えていく。
その景色を初めて見た
畑瀬はまだ口が開いたままだった。
恐ろしい山姥の形相は次第に眠っている女将、鈴江に変わっていった。
虎雄はぼそっと先ほどの細長い木の箱を見て、
「これはおそらくコウくんの片腕だ。
元通り戻してやろう」と言った。
その木箱は一瞬にして消えて
元の場所へ向かった。
その後にまた彼は、
「騒がしてすまなかったね、じゃあおやすみ」と言って去っていった。
「なんですか、稲荷丸さん。あれ」
先ほどの一連の流れに対し、
畑瀬は疑問を抱く。
「代々受け継いだ能力」
と隠すことなく稲荷丸は言った。
「コウくん出ておいで」と稲荷丸が言うと
すぐに、実体化した子供が
こちらへ向かってきた。
「これはコウくんであり、
コウくんだったものだ」と稲荷丸が言うと、
その少年は、ありがとう、僕は眠るね。
と言い残し、途端に姿を消した。
「コウくん、何があったのでしょう」
その後すぐに稲荷丸は帰って
会長に聞いてみようと言った。
「あれ、そういえば、女将さんの実体は」
布団に潜りながら稲荷丸は言う。
「あれは意識だ、女将さんはすでに寝ている」
心配になり、廊下へ顔を覗かせると
それはなくなっていた。
稲荷丸は急に焦り始めた。
「あれスマホは」
「ありがとうございました」と
女将の鈴江に別れの挨拶を投げた。
鈴江は笑顔でコウくんには会えましたか?
と聞いてきた。昨晩のことは
記憶にないのだと言う。
その足で入り口を出て
思い返すように畑瀬は言う。
「あれそういえば虎雄さんは」
「手紙をくれたよ、彼は早朝に去った。
騒がして悪かったな、今度スタバ奢ると」
「スタバ飲むんですね」
そんな会話をしていると、
青く澄んだ空に
赤い鳥居のようなものが浮き上がっていた。
探偵と超自然怪異譚 雛形 絢尊 @kensonhina
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