探偵と旅館の座敷童子(中編)

「いや、やっぱりいくらなんでも、

多くないですか致死量ですよ」

畑瀬は机上に並べられた

大量のお菓子を見て言った。

「良いだろ、そんな固いこと言うなよ」

稲荷丸は何かを咀嚼しながら話す。

「本当に、嫌です、

稲荷丸さんと2人きりなんて」

稲荷丸は黙々と菓子を平らげる。

「そういえばさっきの、

虎雄さん?って誰なんですか?」

「昔ながらの知り合い?みたいなもんかな」

彼は袋菓子を開ける。

「昔からの知り合い、多いんですね」

畑瀬は会長に電話をかけた。

1、2コールで彼は出た。

『お、畑瀬ちゃん、どうだいそっちは』

「どうだいそっちはじゃないですよ」

『なんだ、楽しくないの?』

「楽しくないの?じゃないですよ。

早く帰りたい。

大体私、1人部屋じゃないと

落ち着かないんですよ」

『まあまあ、そんなそんな』

「本当に、叙々苑奢ってもらいますからね」

『まあそれくらいはね』

「あれ、今女性と一緒ですか?」

黙々と菓子を食べ続ける稲荷丸。

『え、いや違うよ。そんなことは』

「今声しましたからね」

『冗談よしてよ』

「会長、既婚者ですよね」

『そうだけど』

「浮気ですか、浮気してるんですか?」

『違う違うよ、違う』

「かなり焦ってますね」

『歌子だよ、歌子さん』

「歌子?やっぱり女じゃないですか、ひど」

気が済むまで食べたのか、稲荷丸は口を開く。

「歌子だよ、知らないの?」

「会長、公認の浮気相手ですか?」

「違う、違う。『茶会』のメンバー」

そうして稲荷丸は再び袋菓子を開ける。

「初耳ですよ」

『そう、歌子と一緒にいる。

ちょっと代わるね』

しばらくして、歌子が通話相手になった。

『歌子だよ、よろしくね、畑瀬ちゃん』

「まだお会いしたことないので

何も言えないんですけど、

会長の愛人かと思いましたよ」

『願い下げだわ、こんなハゲ』

それで安心したのか畑瀬は

少しの笑みを浮かべる。

『ところで畑瀬ちゃん、

今あなたの後ろに男の子がいる?』

急な発言のため、声を漏らした。

『多分、男の子が後ろにいると思うの』

私の背後というと、

稲荷丸が菓子を食べている。

そのまた後ろでは市松人形や

日本人形たちがずらっと並んでいる。

そこでふと目に入ったものが、手毬だ。

花札の柄のような風貌の手毬が

動いているのだ。それはそれは不自然に、

円形に回る。目についた稲荷丸は

それを取り上げる。

「ちょっと稲荷丸さん、

取らないでくださいよ」

「遊びたいんだろ?」再び、

菓子の袋を取り上げながら言う。

ひょいっと彼は手毬を投げた。

「犬じゃないんだから」

『とにかく、帰ってきたら会おうね。

畑瀬ちゃん』

そうして電話が切れた。

沈黙の最中、畑瀬は聞く。

「歌子って誰なんですか?」

咀嚼しながら、

「元々、妖怪だった、それで人間に」

「え、?どういうことですか?」

「会ったら分かるよ」

そうして順々に世も更け始め、

鈴虫の音が目立つようになった。

「覚えてますか?稲荷丸さん、

夜はスマートフォン使わないでって約束」

布団を敷く稲荷丸は、

「小学生の決まりごとみたいだな」

とぼやいた。


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「で、鈴江さん、

例のあれはどこにあるんですか」

と虎雄は女将、鈴江に話しかける。

「いくら探偵さんでも

それは見せられないですよ」

「そんなこと言わないでさ、

どこにあるかだけでも」

薄暗い受付で2人の声が響く。

「開けないって約束はできますか?」

虎雄は頷く。ええ、と。

「菊の間に"それ"はあります」

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