探偵と旅館の座敷童子(前編)

「いや、何勝手に決めてるんですか」

と畑瀬は言う。

「いやいや、ごめんよ申し訳ない」

と会長は言う。畑瀬は溜め息をついた。

「稲荷丸さんとですよ、

同じ部屋で寝るってどういうことですか?

何ハラですか?」

まあまあ、と会長は言う。

「ていうかだいたい、座敷童子が出るって」

そう、こんな依頼が来たのだ。

埼玉県の外れにある民宿で

携帯を盗む座敷童子がいると。

「給料倍上げ」と会長が言うと、

人が変わったように行ってきます、と言った。

ほら行きますよ、と眠っている

稲荷丸の肩を叩く。次は強めに肩を叩く。

ふいっと椅子から起き上がり、

行くか、と言った。


私たちは電車をいくつか乗り継ぎ、

およそ2時間後に現場の旅館に着いた。

こんなに多い時間電車を乗り継ぐことは珍しいので疲れも少し溜まっていた。

あたり一面が田んぼに囲まれていて、

ぽつんとある旅館だ。

名前を「旅館如月」という。

「稲荷丸さん、多過ぎじゃ無いですか」

と畑瀬は言う。そのビニール袋の数だ。

「土産でしょ、ね」

と稲荷丸は言う。

全てが駅の構内の店で買ったものだ。

この宿で彼は自由に飲み食いをするようだ。

「あ、お供物」と彼は思いついたように言う。

「はいはい、全部食べるんですよね」

とかわすように畑瀬は言った。

「ここに座敷童子が」

少し緊張感のこもった声を出す畑瀬。

「これいなかったらお金ちゃんと出るんだよな」と稲荷丸は言う。畑瀬は首を傾げた。


すいません、と畑瀬が声をかけると、

受付の奥から和服を着た女性がやってきた。

歳は50代。気付いたようで、

「あ、探偵の皆様。お待ちしておりました。

女将の鈴江と申します。

と活気のある声で彼女は言った。

彼女は説明をと、部屋まで案内をしてくれた。

着いたこの場所、『菊の間』が出る、

と有名らしい。扉の前で彼女は立ち止まった。

「ここには、コウくんという子がいます。

彼は名前を呼ばれると、すぐに反応を

してくれます。とってもいい子なんです」

まるで我が子のように彼女は言った。

「どうして、コウくんという名前が」

と稲荷丸は問いかけた。

「彼が名乗るんですよ、

自分はコウくんだって」

「コウくんじゃないかもしれない」

と稲荷丸は言う。

何言ってるんですか、と畑瀬は言う。

少し驚いた表情で女将は戸惑う。

「それは確かめてみましょう」

と稲荷丸が言った。

扉を開けると、異様な光景が広がっていた。

菊松人形や日本人形、

お供物のお菓子や大量のお札が目に入る。

「これは、すごいですね」

と言葉を考えた上で畑瀬は言った。

「では早速」と稲荷丸は部屋に踏み入れた。

「ただ、注意していただきたいことが」

と女将は言った。

「夜は絶対スマートフォンを

使わないでください」

失礼しますと頭を下げ、

女将は扉を閉めて去って言った。

「聞きました?」と畑瀬は言う。

「そんなの、

スマートフォン使うしかないですよね」

と想定外の発言に稲荷丸は微笑んだ。

私たちはこの旅館如月を散策しようと

部屋を出た。

大きな源泉風呂もあるらしい。

その途中の大きな和室、

テレビや椅子とテーブルがいくつか

置いてある場所で気になる人影を見た。

「ちょっと、稲荷丸さんどこ行くんですか」

と畑瀬は呼び止める。

彼は窓際の席の人物の方に足を進める。

急足で彼に着いていく。

「虎雄くん」と稲荷丸は言った。

バケットハットを被った青年は、

「おう、稲荷丸くんご無沙汰だね」と言った。

「助手の畑瀬くんだ」と私の方を見て紹介してくれた。私は初めて知った。

助手の立ち位置であったのかと。

「どうしてここに」

彼はバケットハットの鍔を上げながら、

「しばらく旅に出ててね、

偶然ここに立ち寄った。

オカルトの匂いがしたからさ」

と言った。彼は笑っていた。

しかし突如彼はこんなことを言い始めた。

「えっ、河童を探しに来たんじゃないの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る