探偵と謎の透明人間(前編)


「透明人間?」

と、稲荷丸が言う。

そんなものいるわけないと畑瀬は思う。

「それを見たのはいつかな」

と会長が問いかける。

「昨日」

「どこでみたのかい?」

「おうちの前に、いたの」

「それはどんな姿をしていた?」

透明だ。透明だが、

この子の目には映ったのだ。

「背が高くて男の人」

稲荷丸は一点だけを見ている。

「僕を食べてやるって」

食べる?食べるとは一体。

「透明人間と話をつけましょう」

椅子から起き上がった稲荷丸はそう言った。

「稲荷丸くん、それはどうやって」

彼は間髪入れずに、

「自分もなればいいんですよ」と言った。

「案内よろしくね」と畑瀬が言うと、

少年は頷いた。

「会長、それでは行ってきますね」

そう言い残し、外へ出た。


少年の名前は陽太という。この近辺の小学校に通っており、なぜか茶会へ来た。再度の説明だが、茶会とは我々の探偵事務所のことである。

陽太を先頭に2人は歩く。

「呪いの次は透明人間ですか」

そう畑瀬は言った。

聞いていないような様子でも

彼は遅れて頷いた。

「どう解決するつもりですか?」

少し黙った後に、

「まだ見当がつかないな」と言った。

「陽太くん、透明人間はひとりだけ?」

と畑瀬は会話相手を瞬時に変えた。

「うん、ひとり」

「顔は、どんな顔をしてる?怒ってる?」

少し考えて、「とっても悲しそう」と言った。

「おそらく、食うとは

陽太くんの体ごと盗もうってことだな」

ぼそっと言った台詞がかなり大きかった。

「稲荷丸さん、ちょっと声が大きいですよ」

と稲荷丸を叱った。

「不自然がある。気づくかい?」

はて?と少し考えたが出てこない畑瀬。

「今も既に見られてる。

きっとその正体が透明人間だろう」

「え、どこから見てるんですか」

稲荷丸は通り過ぎた少し前の

自動販売機を指差した。

「あそこだ」

後ろを振り返る畑瀬。

「って見えないですよ、

脅かさないでください」

「脅かしてなどない」

再度後ろを振り返るがその姿は確認できない。

「完全に見張られてるな」

「これはストーカーじゃないですか!」

「なぜ執拗に彼に付き纏うのか」

陽太はぼそっと口を開いた。

「多分、僕が見てたから」

え、と畑瀬は溢す。

「殺人現場か」

知っていたように稲荷丸は言う。

「知っていたんですか」

ああ、と稲荷丸は言う。

「3日前ほどに不自然な事件が起きた、

その現場は河原だろ」

うん、と頷く陽太。

「その唯一の目撃者が陽太、

君だったってことだな」

うっ、と稲荷丸は片方の肩を

後ろに引っ張られた。

すぐに臨戦態勢にうつる稲荷丸。

右手を前にして、透明人間の姿を見る。

「え、私には見えないんですけど

どうしたらいいですか」

突然の出来事のため焦りを覚える稲荷丸。

「近辺のコンビニは」

「あ、すぐそこに」

「カラーボールを貰ってきてほしい」

「え、そういうのって」

「早く」と彼は強い口調で言った。

わかりました、と陽太の手を引っ張って

コンビニへ駆け出す。

見えない透明人間と間合いをとる稲荷丸。

「俺は幽霊は見えるけどな、透明人間は見えない。勝率はお前の方が高い。

でもな、見える。勘だ」

いつ襲ってきてもいいほど指先に彼がいる。

早くきてくれと稲荷丸は思った。

いくぞ、という具合に

足を慣らしているようだ。

武器は持ってないようだ。

その時だ、左腕を掴まれた。その反動で身体が前に出た。透明人間の左足の膝が稲荷丸の鳩尾あたりに強く当たった。ううっと声を漏らす。

うまく左腕を強く捻り、

その状態から離脱した。

「やってくれるじゃねえか」

借りてきました、と後ろから声がする。

「投げて」

え、と声を出す畑瀬。

「早く」

「私本当に下手くそで」

「陽太でもいい早く」

「投げますよ」結局お前かいと

心の声が漏れ出しそうだったが安心した。

投げられた球体はもろに稲荷丸の服に当たり、液体が漏れ出した。散った飛沫で畑瀬は漸く

透明人間の姿を目視することができた。

「あ、透明人間」

「それどころじゃないんだよ、

どうすんのこの服」

ことが流れるうちに透明人間はその場から全速力で逃げ出した。追いかけようとするも、稲荷丸はショックのせいか追いかけるのをやめた。

おーい、とどこかから声がする。

あれはコンビニの店員か?

「犯人協力、ありがとうございます」

とエプロンをつけた彼は言う。

もしかして、俺犯人?

「なんて言って借りたの」

「さっき万引きしてる人いましたって」

「俺犯人じゃん」

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