第46話 幸せならあっるっこ〜♪

「あっるっこ〜♪」

「あっるっこ〜♪」

「「わたしは〜♪」

「GEKKOUTYOUであるッッッ!!」


あぁ、晴天なりや。


「勇者、テンション高いにゃ〜」

「さっきまで普通に歩いてたからビックリしちゃった!」

『プゥ』

「ごめんごめん、何か楽しくなっちゃって」


コーラスが入る幻聴まで聞こえながら、ビシッと決めてたポーズを解いて皆と道なりに歩き出す。


荷物を纏めた俺たちは夕べに引き続きサンカバルへ向けて歩き始めていた。


先程の合唱は、お昼の陽気にファトゥとリィが黒髪と茶髪をかすかに揺らしながら歌っていたものに俺が全力の合いの手を打ったものである。


少しやりすぎたか…?とも思ったが、幸いにも軽く流してくれたので内心ホッとしている。


「クゥ。お腹空いてないか?」

『クゥ!』

「そうかそうか」


傍らを健気にも自分の足で歩く小さなクゥに訊ねると、元気の良い返事が返ってきた。


まだまだいけるという反応。頼り甲斐のあるクゥに頷いてから前を見る。


「「……」」

「ん?どうした2人とも、疲れたか?休む?」


すると、前を歩く左のファトゥと右のリィが紫水晶と紅玉の瞳を此方へ真っ直ぐ向けていた。


無言で何も言わない2人に小首を傾げて見せると、不意にくすっと微笑みを浮かべる。


「良かった」

「え?」

「もふもふさせてくれないリィたちには優しくしないのかなぁって思ったけど、心配いらなかったね」

「だって触ろうとしたら避けられるし、勝負して負けたらくっモフ言われるからな…」


ゆらゆらと目の前で揺れる黒猫の綺麗な尻尾と、柔らかそうなリスの大きな尻尾の誘惑に耐えるのも楽じゃない。


「それ抜きにしても君たちは女の子だ。そのことに胡座をかかない限り、当然優しくするとも」

「勇者はイケイケだにゃ、かっこいいと思う!」

「じゃあモフらせてくれ!」

「それは駄目」

「なぁしてぇ!!」


道の往来にも構わず俺は四つん這いで項垂れた。


草食系の方が好きだろうか…いやそんなワイルドなつもりもないけれど。バキバキなアレだし、俺。


「勇者…」

「ファトゥ」


ポンと肩を顔を上げるとしゃがみ込んだファトゥと目が合った。


その表情はとても優しくて…そよ風に揺れる様は、この上なく大人びて見える。


「慰めて、くれるのか?」


俺の消え入りそうな声に一度瞼を閉じると、静かに開いて桜色の瑞々しい唇を開いて声を漏らした。


「モフるの禁止♪」

「いやぁぁぁぁ!!」

「何でトドメ刺したのファトゥちゃん!」

「楽にしてあげたいにゃって」

「慰めてあげたいって意味だよね!?」


頭を抱えて青空に絶叫する。


クゥとリィに肩を支えてもらいながら、ファトゥの悪戯っぽい笑みを目撃。


「勇者!此処は勇者としてファトゥにビシッと言わないとだよ!対等な関係は和平に必要!」

『グゥ!クゥクゥ!』


腕を組んでふふんと不敵に笑うファトゥをリィとクゥが指差すので、俺はふらつく体を押さえてしっかりと見つめる。


そうだな…確かに、しっかりと言わなければ。俺とファトゥは勇者と魔獣軍幹部、その和平を代表する二人になるかもしれないのだ。


よし、言うぞ!


「ファトゥ」

「にゃ」

「もふもふ」

「この勇者、ファトゥのもふもふしか見てないにゃ…」


やれやれと全員に肩を竦められるものの、ファトゥの尻尾は青空の下で何処か楽しそうに揺れていた。


「ふふふ!勇者は弱っているようね!」

「誰にゃ!?」


突如響いた声に俺も起き上がり四方を警戒する。


そして前方を見ていたファトゥが声を張り上げると、シュタッと緑髪のツインテールを跳ねさせつつ上から声の主は舞い降りた。


その少女の頭の上と腰には…狼の耳と尻尾。


「ファトゥ…久しぶりね。勇者を追い詰めるとは、やるじゃない」

「誰にゃ!?」

「本当に気付いてなかった!姿を見せたらお前は、ってなるものでしょう!?」

「狼の少女よ。ファトゥの記憶力は可愛いのだ」

「あぁ、なるほど。それもそうだったわ…」

「可愛いって、も〜勇者ってば〜♪」


ファトゥと知り合いなのか彼女に声を掛けたが思い切り忘れられているご様子。


言葉を濁しても狼少女は納得してくれたが、ファトゥは恥じらうように両手で頰を隠し体をくゆらせていた。


「……そのままの方が幸せかもしれないね」

『プゥ』


遠い目をするリィとクゥ。


そんな二人が…生温かく、ファトゥを見守るのだった。

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