第45話 朝だ!歩こう、俺たちは元気!
「んにゃぁ…勇者、おはよう。何か賑やかだったにゃ?」
テントから、あくびを噛み殺しつつ装備を整えたファトゥが出て来た。
「おはようファトゥ。魔獣軍が襲撃してきたんだ」
「それはのんびりしてる場合じゃないでしょ!?」
目を丸くして大慌てで周囲を見回す。けれど当然、襲撃者の姿は無い。
どうどうと彼女を宥めてから俺は自分の鎧を指差した。
「それがその後逃げていったんだ。自分が放った魔法の矢が跳ね返ったらしくて」
「その鎧って伊達じゃなかったの?」
「辛辣だな!」
さらりと言ってのけたので、本当にそう思っていたんだろう。
ちょっとショックだ…。まぁ今回それを払拭できたのだから、良しとするべきだな。
そう自分に言い聞かせながらしきりに頷いているとテントからのそりとリィが姿を見せる。
「んぁぁ…おはよう勇者、ファトゥちゃん」
「おはようにゃ。良い夢見れた?」
「うん!」
「へぇ、どんな夢だろうか」
ゆらりと黒猫の尻尾を揺らすファトゥが聞くと、嬉々として頷くリィ。
あまりにもにこやかなので俺も聞いてみた。
すると…何故か此方を見てニヤリとしてから、リィは恥じらう乙女のように口元を両手で隠しながらこう答える。
「それはね…勇者とデートする夢♪」
「にゃっ!?」
「なっ!?」
『クゥ?』
「きゃ〜言っちゃった!」
ふいっと横を向きながら自分の大きなリスの尻尾を抱きしめ照れ隠しするリィ。
けれど、俺の勇者アイは捉えた。彼女の口元が…凄くニヤリとしていたのを。
「勇者!」
「えぇ俺ぇ!?そんな夢を見せる魔法無いぞ!」
「あるよ?」
「あるの!?」
だがしかし。ファトゥの紫水晶の瞳は見逃してしまったようだ…何故か俺がムッとした様子で詰め寄られる。
一生懸命弁明しようと首も両手も振ってみるが、それを忘れるほどリィの存在する宣言に驚いた。
魔法…自由だなぁ。魔獣軍は兎も角、人間だと杖くらいじゃなければ使えなさそうだけど。
「というかファトゥ。俺が一度でも魔法使ったり教わってるとこを見てないだろ?」
「それもそうだね」
「実は一昨日の宿の中でこっそり…」
「勇者!」
「落ち着け単純すぎるぞ!?」
「冗談にゃ」
「本当に?」
「これが本当の猫騙し」
猫に騙されるから猫騙しってことか…魚食べたから頭良くなったかな?
「何か失礼なこと考えてる顔してる!」
「そんな訳ないだろ?俺たちは仲間だ」
「ほんとかにゃ〜」
「冗談でもリィの言葉は信じたのにぃ!」
「にゃっはっはっは♪」
ぐわぁ!と頭を抱えると上機嫌に高笑いするファトゥ。
それにリィも楽しそうにふふふっと笑うものだから、俺もやれやれとしつつも内心で楽しいと強く感じていた。
「それじゃあ朝ご飯食べよ?」
「俺とクゥは先に食べたから、2人はゆっくり食べてくれ。テントの片付けをしておくから」
「「は〜い!」」
揃って手を上げ返事をする姿にまるで将g遠足だなと笑いながら、俺は彼女たちに缶詰とスプーンを手渡す。
目を輝かせて彼女たちが朝ご飯に舌鼓を打つ間に俺とクゥはテキパキとテントをたたみ終え、ナップサックという名の鞄へ収納した。
「よぉし!サンカバルを目指して、出発〜?」
「「進行〜!」」
『グゥ〜!』
お〜!と皆で息を合わせて拳を空へ突き出すと、俺たちは昨日に引き続き次の街サンカバルを目指して歩き出す。
「……」
虎視眈々と此方を狙う、狼の視線に気付かぬままに。
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