第44話 熊とキャンプと狼と
朝。目が覚めて〜♪
一番最初に見た光景は…むにゃむにゃと見事な寝言を溢すファトゥの寝顔。
ではなく。
自分の尻尾を抱き枕にして可愛らしい寝息を立てるリィの寝顔。
でもなく。
『フス〜』
「……おはよう、クゥ」
ウサギサイズまで小さくなった、クゥのもふいお尻だった。丸くなっているのでお尻と顔が同時にこちらに向けられている。
その赤いつぶらな瞳は開いているのでどうやら俺よりも先に起きていたようだ。
動物は朝の匂いに敏感というのはあながち嘘でもないらしい。
「お前は偉いな〜」
『プゥ♪』
小声で囁きながらクゥの頭を撫でると、満更でもなさそうな鳴き声をあげる。
そっと体を起こしてファトゥたちの様子を確認したが起きる気配は無い。
まぁ急ぐ旅でも…いや俺の本来の仲間たち魔王に眠らされてたな。
「優秀すぎるからたまには夢の中でのんびりしてもらおう」
『クゥ?』
「あぁすまん。独り言だ」
過度な音を立てないよう慎重に着替えてから、鎧を外で着けひと足先に朝ごはんと洒落込む。
やはり朝ごはんは早いうちに食べないと昼ごはんと変わらない気がするんだよなぁ。
「ほい。クゥには約束の缶詰だ」
『クゥ!』
簡易的に椅子を一つ用意してそこに座る。
そこから鞄から缶詰を取り出し、金属が僅かに擦れる音を立てながら蓋を開けた。
桃が入っていたそれをクゥの前に差し出すとフリフリと愛らしい尻尾を揺らしながら元気良く食べ始める。
それを見て癒しをもらってから、俺も肉の缶詰を取り出して手を合わせ一口。
「ん〜冷たいこの感じが、口をさっぱりさせてくれてるから爽やかだぜ⭐︎」
『フス、フス!』
「分かってる、ちゃんと分けてやるから。まずはそれを食べ終えような」
『グゥ〜♪』
大体朝7時頃。1人と1匹の穏やかな朝ごはん。
朝の木漏れ日と鳥の囀りの中、時折そよ風にさざめく葉の音を耳にしながらの朝食はリッチな雰囲気を醸し出してくれた。
「う〜ん…何某オリジナルよりも特別感感じるね」
クゥというもふもふもあり、美味しいご飯ものんびりとした時間もあり。
言う事なしに近い朝でかなり満ち足りた気持ちになっていると、突然穏やかな朝を蹴散らす凛とした声が響いた。
「勇者覚悟ォ!」
「ん?」
ヒュオッ!と何かが空気を切り裂くような音がしたかと思えば、背中からドンッと衝撃と共にカァン!何かが弾かれた音に襲われる。
「襲撃か!?」
「あたっ!わわわ、…フギャッ!!」
「はい?」
俺が振り向いた時には、緑髪の女の子が悲鳴を上げて顔から落下していた。
その手には弓が握られているが矢筒は無い。もしかしたら、魔法の矢を放たれたのかもしれないな。
「うぅ…何で魔法が跳ね返って来るのよぉ?」
「おーい、大丈夫か〜?」
「なっ!?ゆ、勇者に気遣われても!」
鼻頭をさすっていた彼女がビシッと指差して来る。
蒼い瞳は彼女の髪色と合っており、何だか。
「綺麗だな」
「なっ!?」
「ん?あぁ…口に出しちゃってたか」
「う、うぅ!」
顔を急速に真っ赤にするツインテールでファトゥに近い背丈の少女は、狼の耳と尻尾をバタバタとさせると。
「う、嬉しくなんて…ないんだからぁ!!」
「あぁちょっと!?」
あっという間に木に登ると枝から枝へ跳躍して、瞬きする間に逃げ去ってしまった。
「……褒められ慣れてなかったのかね?」
『プゥ』
思わず呆けてしまう俺が傍らのクゥに訊ねても、気の抜けた返事と空の缶詰が返って来るだけだった。
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