第43話 こうして冤罪は生まれるのか…!

「勇者勇者」

「ん?どうしたリィ。魔王がいないからそれだとゆうゆうになっちゃうぞ」

「いやあれも2人は仲良しだけど!サンカバルってどれくらい先なのか気になって」

「おぉそうか。ちょっと待ってくれ」


テント内に装備を置いてゆったりとした晩御飯を終え片付けたあと、俺たちはテントの中で川の字になって横になっていた。


クゥは勿論小さくなってリィの側に居る。


街を出る前にしっかりと手にしておいたこの辺り一帯のマップをポーチから取り出し広げ、それにファトゥたちが覗き込んでから話を続けた。


「今俺たちはクトスを少し離れて…この辺りだな」


クトスを示す大きな丸から道なりになぞり、途中で手を止める。


「そして、サンカバルは此処」


指を離すと地図上でも少し離れた別の大きな

丸を差す。


「大体三割くらいか」

「まだ遠いにゃ」

「そりゃあさっき街を出たようなものだし、それで此処まで来れたなら寧ろ早いペースだろう」


リィはふむふむと可愛いリス耳と茶色の髪を揺らして頷いたが、ファトゥは両手を投げ出して伸びをした。


黒猫の伸びそのものといった感じでとても可愛らしい。


ただインナー姿で伸びをするのは少し止めて欲しいと思う。その…色々見えそうだし。


「にゃぁぁ…」


気持ち良いのか大きな欠伸まで溢すファトゥ。


少しずつ捲れ上がり、尻尾の付け根が今…!


「ふぅ、眠くなってきたにゃん」

「っ!」


見える寸前で伸びは終了しファトゥは黒髪を翻して仰向けになった。


少しだけ間隔は空いているので、寝返り程度なら干渉しない。


しかしそんなことよりも直前で逃してしまったことが口惜しく思わず拳を握る。


「勇者は本当に好きだね〜♪」

「へ!?な、何をだ?」


隣から声をかけられ反射的に上半身を起こしながら其方を振り向く。


リィは木の実のように赤いその目を細め、頬杖をついてニヤニヤと俺に笑いかけていた。


「さぁ…何をだろうねぇ」

『クゥ』


湯たんぽのようにすっぽり収まるクゥの頭を撫でながらリィははぐらかす。


ふりふりと大きなリスの尻尾が揺れているけれど、何となくだが今聞いても暖簾に腕押しで教えてくれそうにない。


諦めてため息を一息漏らし俺も仰向けに寝転がった。


「リィ突然なんだけど」

「いやんえっち♪」

「何の話?」

「すけべ勇者はお仕置きにゃ…」

「何の話ですかね!?あぁやめろ爪を見せるな、俺は何もしてないし言ってない!」


不意に聞いてみたいことがあったのだが。


何とリィは、俺が本題を切り出す前にわざとむにゅりと両手で自身の胸を強調するように押さえてしまう。


それだけならまだしも、あれだけリラックスしていたはずのファトゥが般若を背負って淡々と俺の前で爪を見せつけてきた。


彼女の静かな怒りは、ガーッと元気に詰め寄られるよりも恐ろしい。


「ところで勇者。何か話があったの?」

「今この状況で!?どちらかと言うと話よりもファトゥを止めてくれないか!?」

「勇者ぁ!」

「それでも俺はやってなぁい!!」


何とか言い繕おうとするけれど、結局俺はファトゥにグリグリと傷が付かないギリギリの強さで爪を立てられながら正座をさせられる。


「勇者」

「チョリッス勇者です⭐︎」

「フン!」

「へぶらいっ!?」


何とか和ませようと茶化してみたが、お気に召さなかったようで容赦ない猫パンチを頂戴する。


幸いにも、今回は意識を持っていかれることはなかった…手加減してくれたんだな、優しい!


俺は温かい気持ちになりながら、ひりつく頰を堪えて間もなく就寝した。

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