第42話 孤独のキャンプ。やっぱりこれ、やらないとな!

「ふぅ、とりあえずテント設営完了。お疲れ様、クゥ」

『クゥ♪』


自在ロープをしっかりペグダウンして地面と固定し、テント設営を完了させる。


「こういう肉体労働を女の子であるファトゥやリィにやらせるわけにはいかないからな…」


とは言え1人でやるのは難しいので、元に戻ったクゥに手伝ってもらった。


此奴、賢いなんてものじゃない。確実に人の言語を理解している。


本当に助けられている…今夜はご飯多めにしてやろう。


「ファトゥたち、帰って来れると良いのだけど」

『プゥ…』


周囲は木々に囲まれているので天候の心配もなく大型の魔物は近付くのが難しいので安全面においても完璧だ。


しかし、それは外に出た人物からも見えづらいということ。


ファトゥとリィは何か食材を獲りたい!と目を輝かせ、止める間もなく森の奥へと消えてしまったのだ。


獣の本能だろうか…?


「でもちょっと遅い。クゥ、探してきて欲しい」

『グゥ?』

「勿論。果物の缶詰を一個増しでどうだ!」

『ガゥゥ〜!』


空も大分暗くなってきたので、そろそろテントに戻ってきて欲しいと心配になる。


俺も探しに行きたいが入れ違いになっても大変だ。


そう思ってクゥに頼んでみると、つぶらな赤い瞳を瞬かせ"良いけどご褒美ある?"と言いたげな声を漏らすので、ポンポンと俺の鞄を叩く。


ご機嫌に一声吠えると軽く地面を揺らしながらすごい勢いで駆け出していった。


「……シュールストレミングでもあれば、魚の缶詰だって悪戯仕掛けられたが。まぁ良いか」


鞄からちゃんと桃の缶詰を取り出しながら、俺は独り言を溢す。


此方に缶詰があるのは驚いたものの剣やら盾やらにもバリバリに金属は使われているし、食に対する熱意が凄いのはどの世界も変わらないか。


同じ人間だもの。 おゆれ


「そうだ、こっそり肉でも焼いておこう。一度やってみたかったんだよね〜」


キャンプセットの中には、焼き肉キットも入っていた。


熱が伝わらないようゴムの取っ手があるハンドレバーに、誰にも内緒で購入していた肉を切らずにブスリと突き刺す。


「こんな食べ方、向こうじゃ勿体無くて出来なかったからな…」


向こうと違って静謐な森の空気と幻想的に綺麗な空の下俺は着々と準備を進め、火を起こすと肉に当たるように位置を調節。


肉の油が滴り小気味良い音を響かせて火が弾けると共に、香ばしい香りが漂ってきた。


焦がさないようにくるっと回すと…ふと興が乗り、ついくるくるとゆっくり止めることなく回し始めてしまう。


「デードゥーデードゥー、テン!テテンテレレ、テン!テテンテレレ〜♪」


例の肉焼きBGMを自前で歌いながら程良く焼き上げていき…ついに。


「上手に焼けたンゴ!!」


頃合いを見計らいこんがりと焼いた肉をバッと天高く掲げて、調理完了!


さぁて、それじゃあこっそり一口…。


「ってわぁ!?」

「勇者、1人で食べようとしてたにゃ?」


いつの間にか目の前にむすっとした顔のファトゥが、紫水晶の瞳を細めて立っていた。


「そ、そんなことないぞ?その証拠にほら、一口も齧ってない!」

「どうだかなぁ…ま、良いや。お魚取ってきたよ♪」

「リィたちも頑張った!」

『クゥ!』


魚を数匹捕まえてきたようで、ファトゥとリィはそれぞれ両手の魚を見せてくる。


「お疲れ様。でも、意外と控えめだな。感心感心」

「いやぁそれがね?ファトゥちゃんがつまみ食いするから何匹か食べちゃったの。あと絶対こっちにゃ!って言いながらドンドン進んでいくから、道にも迷っちゃって」

「そ、それは内緒って約束したのに!」

「そうだった!ごめんなさい♪」


慌ててリィに駆け寄るものの、テヘッとリィが戯けるのを見てもう遅いと悟ったらしい。


恐る恐る俺の方を見て落ち着かない様子のファトゥ。


「……ちゃんとこの肉とその魚の分、お腹は空いてるか?」

「勇者…!良いやつだにゃぁ!」

「ありがとう。すぐに焼くから大人しく待っててくれよ」


それが妙に可愛かったので、ポンポンと頭を撫でてやると黒猫の耳と尻尾を揺らしてファトゥは抱きついてくるのだった。

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