第40話 待ってろキャンプライフぅ!!

「ねぇ勇者」

「何だねファトゥスンくん」

「それ前にもやったにゃ!?じゃなくて、アレ」


女店主に「またいつでも泊まりにおいで!」と見送られ、朝ごはんを食べた後俺たちは集会所にてクエストを受注した。


その対象は…何と蜂。今回は魚絡みというより、純粋な依頼のようである。


蜂程度なら鎧が防いでくれるだろうし報酬も5,000円と狼と同格なんてウマウマ!とはしゃいでいたのがついさっきまで。


「アレの何処が、唯の蜂にゃ?」

『……』


クトスの街から少し東に歩いた林の中でファトゥが指差したそこには、本来のクゥに迫るくらいの大きな蜂が浮遊していた。


全身黒い体に時折赤いラインが走り、目は不気味なまでにに真っ赤でその羽音も恐ろしい。


「流石に勇者もあれはどう?」

『クゥ』


ファトゥたちの反対側からリィとクゥが声を掛けてくる。


因みにリィの素晴らしいもふもふとクゥのサイズも戻っている…戻さなくても影響はないらしいが、俺のモチベもといクゥたちの援護も期待して外では戻してもらうようお願いした。


どう、というのは俺のもふもふ判定に引っかかるかどうかということだろう。


「リィ、君は蜂の踊りを見たことがあるか?」

「無いかな」

「よし話は終わりだ行くぞ!」

「いやいやいや」

「どうしたのファトゥちゃん!スパーキングしたくなった?」

「確かにへっちゃらだけどもそうじゃない!

蜂の踊りは何の関係があったにゃ!?」

「無いな」

「に"ゃ"っ"」


ファトゥは紫水晶の目を丸くして唖然とした。


それに対して、俺もリィも満足げに頷く。


「良いね良いね。俺の見込んだ通り、ファトゥは良いツッコミ役になれる」

「才能が光ってるよ!流石は魔獣軍幹部♪」

「それこそ関係無いよね?絶対関係無いよね!?」

「はい、オッパッ」


ヒュパァン!!目にも止まらぬ速さでファトゥの強烈な猫パンチを頰に受け、俺は耐え切れずその場に崩れ落ちた。


「そろそろ蜂を狩るにゃ。その前に幹部らしく勇者を倒したよ、どうかな?」

「す、すごぉい。リィとクゥちゃんも憧れちゃう〜!」

「むふふぅ。それじゃ、いざ突撃〜!」

『ガゥ〜!』


ファトゥの号令により、一斉に駆け出す勇者パーティ改め魔獣軍の皆さん。


俺はというと…朦朧とする意識の中ファトゥのツッコミはボケるのも命懸けなのだと、頰から立ち込める煙と痛みを伴った学びを心に刻んでいた。


そして蜂は、俺が起き上がれた頃には綺麗に真っ二つにされていた。


実は蜂も毛を持っている顕微鏡くらいで拡大すればもふもふと呼べる相手だったのだが、まぁ彼女たちの頑張りを蔑ろにはできないしノックアウトされていたのだから多くは語るまい。


〜〜〜〜〜


「あ、勇者様おかえりなさ…今回はちゃんと素材も持ち帰ったんですね!そんな怪我までされて…お疲れ様でした」

「ま、まぁそうです。男の勲章ってやつです」


土下座を超える土下寝を披露して何とかファトゥ様の許しを得た後、集会所へと直行。


レイティさんに回収した蜂の針などを達成の証拠として渡して報酬を受け取る。


「感謝するにゃ?」

「ありがとうございます!」

「勇者様、立場逆では…」


しっかり布を被ったファトゥに俺が頭を下げる姿を見てレイティさんが微苦笑するが、今回は彼女たちの手柄なので何も間違っていない。


「これでキャンプアイテムは買えそうだね」

『プゥ!』

「おや、勇者様野宿なさるのですか?」

「えぇ。そろそろ次の街へ向かおうかと」


今朝の内に女店主からそれらを買い揃えられるショップを教えてもらっている。


もう直ぐ夕方も近いので、そろそろ向かった方が良さそうだ。


安全な野営ポイントも探さないといけないからな。


「そうですか…寂しくなりますね」

「レイティさん…」

「寂しくなるなぁ」

「マスター…」

『ちくわ大明神』

「何がs誰だ今の!?」


目を伏せるレイティさんといつの間にか立っていたマスターに募る思いを感じた直後に聞こえた声。


慌てて周囲を見回すけれど皆不思議そうに此方を見ているので、恐らく幻聴だ。


「次の街でも頑張ってくださいね!」

「俺たちの魚を頼んだぜ!」

「はい!次に会う時は、魔王の件が解決した後に!」


俺たち全員と握手を交わし、温かくその場にいた皆に見送られながらクトスの集会所を後にする。


そしてそのショップに向かいながら、俺は全員を軽く見回してから口を開いた。


「よし、じゃあ皆に確認だ。まずキャンプに必要なものは?」

「愛と」

「怒りと!」

『クゥ!』

「シャイニングキャンパーソードでも作るつもりか!?」


確実に昨晩の話聞いていなかったな…先行きが怪しくなる感覚に不安を感じつつ、俺は歩きながら再度全員に確認を取るのだった。

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