第38話 今日から君は!
「ええい!この際現実のもふもふはまた今度と割り切ろう!それよりもだ!」
「本当に良いニャ?」
「……それよりも、だ…!」
「唇噛みしめてる!?凄い決意を感じるニャ…!」
俺は断腸の思いで決断する。何やってんだよ、断腸!ってことだ!
ハンドガンの代わりに拳を握りしめた俺は、マントをひらひらと翻し琥珀色の瞳で俺を見上げるミィに問いかける。
「君ならいつでも俺に会いに来れそうだが、何故昨日は来なかったんだ?いや、来る理由は大して無いのかもしれないけども」
直近だし魔王は勇者を待つのが定石。
普通は会う方がおかしい気がするものの、それはそれこれはこれだ。
「本当は会いに行こうとしたニャ?」
「おぉ!嬉しいねぇ…なら、何で」
「それは」
「うん」
「実は…!」
目をクワッと見開き茶色と黒の耳と尻尾をピンと立て溜めるミィ。
まさか、止むに止まれぬ事情があったのか?
例えば北枕で眠ったことが気になり落ち着かなかったのかもしれない。
思わず固唾を飲んでミィの言葉を待っていると…ついに、その可愛らしい口は開かれた。
「勇者の眠りが深すぎて夢で会いに行けなかったニャ!」
「俺が悪かった!!」
二つの意味で俺が原因だったらしい。
どうにも居た堪れなくなり、思わず喧嘩別れして謝りに来た男のような台詞で土下座を決める。
「何よ今更!ミィがどれだけ苦しかったと…!」
「俺はぁバカだった、もう一度やり直せねぇか!?」
「本当おバカ!会いたかったんだからニャぁ!」
グイッと詰め寄ってくるので両腕を広げて待ち構えた。
しかし…俺の腕に収まる直前で、ニヤリと彼女の顔が意地悪な笑みになる。
「ニャ〜んてニャ♪」
「えっ」
「もふもふはお預け!」
「ぐぬぉぉぉぉ!!もふもふくれよ、もふもふさせてくれよぉぉぉ!!」
「ニャッハッハッハ!」
片や仁王立ちで高笑いという、正に魔王らしい振る舞いのミィ。
片や俺は両腕で地面を叩き、悲しみに打ちひしがれる勇者。
状況だけ見れば世界の危機的状況だが…危機なのは俺のメンタルだけであって、世界は至って平和である。
そして。俺のメンタルもまた、救われる。
「それも嘘ニャ」
「へ?」
フワリ---ミィは軽く二又の尻尾で俺の両頬を撫でると、数回突いて尻尾を離した。
「い、今…君の尻尾が…!」
「気まぐれにもふもふしてあげたニャ。続きは、直接会ってミィに勝ったご褒美で!じゃあね勇者、ばいニャら〜♪」
「あ、ま、待ってくれ!」
初めて会った時と同じ言葉で引き留めようとするけれど、魔王様はペロリと舌を見せてイタズラっぽい笑いを残し何処かへと消えてしまった。
〜〜〜〜〜
「……ハッ!?もふもふ!?」
『プゥ』
「クゥ!」
目が覚めると、目の前には可愛らしいクゥのつぶらな目。
思わずギュッと抱きしめたら温かくも柔らかなもふもふを感じ、俺は寝ても覚めても幸せを享受していた。
「あ、勇者起きた!」
「……」
「あれ、ファトゥどうしたの?さっきまで一緒にもふもふって勇者のこと心配してたのに」
体を起こしてリィにクゥを手渡すと、ファトゥは俺に長い黒髪を見せるように背を向けたまま尻尾を抱きしめていることに気付く。
「何だか…恥ずかしくなってきたにゃ。だって、ファトゥもリィも裸見られたんだよ!?」
チラリと振り返ったその顔は、りんごのように赤い。
彼女の生まれたままの御姿は記憶に焼き付けているので今更照れても仕方ないが、こんなに恥じらってくれるなら記憶を消してまた見ることも吝かではないぞ?
「責任取って、勇者結婚して♪」
「なるほど魔獣軍と人間の友好の証か!」
「いやそれなら魔王様としなくちゃ意味ないよね!?」
「じゃあクゥと…クゥは雄か」
『ガゥ?』
「もっと気にすることあるにゃ!絶対問題はそこじゃないから!」
怒涛のツッコミを見せるファトゥに、俺たちの視線が彼女に注がれる。
「な、何かな」
「ファトゥ…今日から君は俺たちのパーティのツッコミ担当だ!」
「にゃんで!?」
「あって困らない存在だぞ?」
「せめて無くてはならないって言ってよぉ!」
ブンブンと腕を振り耳と尻尾を激しく動かすファトゥ。
それがあまりに可愛らしくて、皆してつい笑顔を浮かべてしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます