第34話 もしかしたら:単純
「勇者はそんなにあの贅肉が好きなの!?動きにくいし、素早く動いたら絶対痛いにゃ!」
「落ち着けファトゥリー!」
「あんなゴリマッチョじゃない!」
「何だかファクトリーみたいだね♪」
「プレスしてあげる!」
紫水晶の瞳を釣り上げ、尻尾をピンと立ててブワッと大きくするファトゥ。
あの尻尾の感じ…確か怒っている、威嚇している時のものだ。
やはり胸の大小は女の子にとって大切なこと。今後は慎重に接してあげなければいけないな。
「まぁとりあえず。リィ、プゥをどれだけ小さく出来るかやってみてくれないか?」
「うん、良いよ〜。プゥちゃん、小さくなぁれ!」
リィは華奢な手をプゥへ伸ばすと、その手のひらに幾何学的な魔法陣が浮かび上がる。
魔獣軍や魔物は自分で魔力を持っているので、道具に大気のマナを集める必要が無い。
つまり道具が要らないから、その場で魔法を発動出来るのだ。
『プゥ〜!』
プゥは体を光らせるとみるみるうちにサイズが小さくなり…野兎と変わらないサイズにまでなる。
それをリィは肩に乗せて、むふ〜と得意げにドヤ顔をした。
「「おぉ〜」」
この目でハッキリと魔法を見たのは大体二度目だ。しかも前回に至っては鑑定魔法だったので、俺たちからしたら分かりづらい。
けれど今度は目に見える形でのものだったので、俺もファトゥも思わず顔を見合わせて拍手してしまった。
「これで良いよね!」
『プゥ!』
「あぁ。後は名前だな…」
「クゥで良いにゃ」
「クゥ!可愛いね、今日からクゥちゃんだ♪」
『クゥ?』
「よぉしクトスへ!…ってちょっと待ってくれ」
?と小首を傾げる一同の前で、俺はリィのもふもふの尻尾指差す。
「もふもふ!」
『……???』
しまった。あまりにも素晴らしいリスの尻尾だったから、つい意識が引きずられていたようだ。
ペチペチと自分の頬を叩いて意識を切り替えて、再度待ったをかける。
「リィの尻尾はどうやって隠すんだ?」
「勇者はこの尻尾、嫌い…?」
「好きだ!」
「もっと!」
「大好きだ!」
「もう一声!」
「愛してる!!」
「なら問題ないね♪」
「よし行くぞぉ!!」
「コラァ!!勇者が洗脳されてどうする!?」
「ひでぶっ!」
ファトゥがパァン!と軽く俺の頬を叩いて正気を呼び起こす。
危ない、折角穏便に勇者として働いているのに悪事を働いてると思われるところだった。
正直俺自身が勇者かどうかはどうでもいいんだけど、魔王との和平を結ぶ為にはこの肩書きが何かと都合が良い。
「えへへ、ごめんなさい♪おじさんがチョロいからつい…」
「何だとぉ!」
「勇者。そんなの皆知ってることだし、早く話進めないと」
「そんなどうでも良いことみたいな!?」
俺としては気になるのだが…まぁしょうがないか。
『クゥ〜』
「そうだねクゥちゃん。おじさん、これなら…どう?」
再び幾何学的な魔法陣を浮かび上がらせると、ポンとリィは自身の尻尾を撫でる。
すると、尻尾はみるみる小さくなり…ウサギの尻尾のようなサイズへと変化したではないか!
「あぁ…最高だよ、リィ。えらいえらい…」
「物凄くショック受けてる!?」
「気にしなくて良いにゃ。発作のようなものだから」
全ての問題が解決したのは良いことなのに、あの素晴らしいもふもふが目の前で小さくなっていく様はあまりにも衝撃的すぎて俺のテンションは酷く落ち込んだ。
もふもふ…もふもふ…。
「あ、これはすぐにでもまた元の大きさに戻せるよ?クゥちゃんもおんなじように」
「良かったぁぁぁ!!」
「わかりやすいなぁ…」
『プゥ…』
若干呆れられてる気がしたけれど、それこそ俺には些細なことだった。
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