第33話 そもそもの話だったよね

「なので、まずはプゥをどうするか考えるぞ。名前を決めるにせよ何にせよ、話はそれからだ」

「パナシはそれからだ?」

「ウッキィ!じゃなくてね、話を」

「カナシはそれからだ!」

「何もかもそうだからまずは名前を」

『プゥ』

「IGAAAAAA!!」

「大変!また勇者が発狂しちゃった!」


閑話休題。


「それで、今のところリィはプゥと協力してるみたいだが…君はどうしたい?最悪、クエストはまた誤魔化しで達成できるから此方のことは気にするな」

「ファトゥたちって、まともにクエストクリアしたことないんじゃ」

「言うなファトゥ!まだ誰にもバレちゃいない!」

「あはは…リィはね、出来ればプゥちゃんも一緒が良いの」

「そうか」


もふっとその柔らかな毛並みのプゥに手を伸ばして、背丈とは不釣り合いな大人びた微笑みを見せるリィ。


やはり彼女たちは、これまで一緒に暮らしてきたのだろう。


固い絆で結ばれているのだ…それは最も固いと言われる、ダイヤのように!


「でも非常食ってあるよね」

『グァ!?』


恐ろしく固いダイヤにも叩けば割れる角度というものもある。


「冗談だよ!7:3で」

「どちらが冗談だろうと中々の割合だと思うよ…?」


ファトゥがリィの無邪気さに困惑する中、落ち着かない様子の洞窟の熊さんの肩に俺はポンと手を乗せた。


「大変だな、お前も」

『ガゥ…!』


俺とプゥの間に、確かな絆がまた一つ生まれた瞬間である。


「さて、そろそろ話を進めるか。リィがプゥを連れて行きたいなら俺たちはプゥを討伐しないし、名前を改める必要がある」

「新しい名前付けてあげるからね、プゥ!」

『プゥ?』


1番良いのを頼むと聞こえたのは俺だけじゃないはずだ。


短い方が呼びやすいよね〜とか、呼びやすい音あるかな〜とか尻尾を揺らして上機嫌に考えるリィ。


「ねぇ勇者」

「ん?どうした、ファトゥ」

「そもそもプゥを連れて街に近付いたら、絶対衛兵の人たちにやられると思うにゃ」

「……し、しまったぁ!」

「気付いてなかったの!?」


プゥのもふもふが心地良いばかりにうっかりしていた!


議題が一つ増えたが…それにしても。


「ファトゥ、頭良いんだね♪」

「見直したぞ!」

『グゥ!』

「何でだろう、褒められてるはずなのにバカにされてる気がするなぁ」


普段は褒められると嬉しそうに笑うファトゥも、今回ばかりは紫水晶の瞳を細めて何処か不服そうだ。


少なくとも俺は偽らざる本音のはずなんだが…翻訳魔法も万能ではないらしい。


「うむむ。しかし困ったな、街の外に待てしても衛兵に見つかったら大騒ぎだろうし。プゥ、お前さん」

『プゥ?』

「小さくなれない?」

『!?』


俺たちの機体の眼差しを向けられ、オロオロと戸惑っていたプゥ。


やがて自分を鼓舞するようにグッと拳を握ると…モゾモゾと身を縮こませ。


『……』


そしてプゥは大きな毛玉みたいに丸くなった。


「無理だにゃ」

「無理だね〜」

「無理か!プゥ、頑張ってくれてありがとう…」

『プゥ〜…』


元に戻ったプゥの背中を撫でてやると、彼は何処か申し訳なさそうに一鳴きする。


「まぁプゥはリィが召喚した魔物だから、大きさとか自由に変えられるんだけどね⭐︎」

「リィさん!?」


えへっ♪とウィンクするリィ。


その表情も可愛かったが、ふさふさと揺れる尻尾や魅惑的に揺れるそのお胸は殊更に俺の視線を釘付けにした。


「勇者…変態にゃ」

「バレたか!?」


唸るように声を漏らしながら、ファトゥはベシベシと自慢の尻尾で地面を何度も叩いていた。


確実に威圧されている!


やっぱり女の子にとって視線は敏感なもののようだ、気を付けないと。


俺はまた一つ、今この場では微妙に関係のない新たな知見を得るのだった。

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