第32話 ギリギリ何とか…いや危険か!
「まぁとりあえず、リィを連れて行くに当たって問題が三つある!」
「それは何にゃ?勇者メーカー」
「そんなフリーソフトみたいな名前じゃないが!?ごほん。まず一つ、リィのその尻尾」
「これ?」
耳、尻尾の順に目線を向けながらリィがこれ見よがしに動かしてみせる。
「あぁ。ファトゥの猫耳や尻尾は布を被れば誤魔化せるが、リィの尻尾はあまりにももふもふだ!素晴らしい!」
「「?」」
『ガゥガゥ』
「……すまない脱線した。ええと、リィの尻尾は布で隠すには大きい。ファトゥみたいに体に巻き付けたら、シルエットが大変なことになる」
ふと目を閉じてその光景を思い浮かべてみた。
勇者の俺。その隣を歩く布を被ったファトゥ。そしてその反対側の…ダルマのようなシルエットのリィン。
「完全にOUTだ!主に俺の世間体が」
「勇者のそれで済むなら安いもんにゃ」
「そもそもリィたち敵だしね。そこまで考慮してあげられないかも」
「そんなご無体なこと言わないでくれ!」
「やぁいざぁこざぁこ♡世間体気にする心配性〜♪」
「何だとぉ!?」
ニヤニヤと口元を隠して此方を笑うリィ。こ、これは…伝説のメスガキ!実在していたのか!
しかもリスの耳や尻尾に加えてたわわに育ったお胸も持ち合わせている。彼女は一体、どれほどの属性を…!?
「ふふふ。おじさん何だか」
『プゥ!』
「ホグワァッ!?」
舞い上がって思わず口走りそうになった時、俺の体に軽くプゥがタックルを決める。
助走零距離でこれほどのタックルとは。
鎧が無ければ、吹き飛んでいたただろう。
何事も健全で無ければいけないと彼の目から強い意志を感じ、俺は頷きを返すと困惑するファトゥたちに向き直り再度話を戻した。
「俺の世間体だけじゃない。もし人の多いところで注目なんてされたら」
「あ!そっか、そうだよね」
「分かってくれたなら助かる」
「プゥが人の味覚えちゃうもんね…」
「既に魔獣軍だとバレた後の話を始めている!?」
『ガゥ!?』
うーんと真剣そうに唸るリィ。
尻尾が右へ左へ揺れ動いているのは可愛らしいけれど、言っていることは魔獣軍どころではない恐怖そのもの。
斜め上の心配をされるプゥも、口をあんぐり開けて驚く有り様だ。
「違うと思うよリィ!」
「良いぞファトゥ、ビシッと幹部らしく決めてやれ!」
『グゥ…?』
勇者としてそれはどうなの?と言いたげなプゥは無視する。
「バレちゃったら魚隠されちゃう。こっそり盗み食いするためにも、目立ったらいけないにゃ」
「なるほど!流石ファトゥ、魔獣軍幹部だね」
「えへへ〜」
「とんでもない過程から俺の言いたい結論に辿り着くこともあるんだ…。まぁこの際、それが一つ目の問題。次に二つ目、というより三つ目もだけど」
2、3と指を立て此方に注目させながらプゥの方を見た。
「プゥはクエストの討伐対象だからそのまま連れて行くわけにはいかないことと…1番大きな問題そう!プゥの名前だ!」
「プゥの」
「名前?」
『プゥ』
色々問題はあるけれど、1番俺が問題視しているのがそこである。
「だってそうだろう?プゥちゃんやプゥならまだ良いけれど…さん付けなんてしてみたらどうなるか」
「「!!」」
事ここに至って、漸くファトゥもリィも分かってくれたらしい。
ただ1匹だけキョトンとするプゥの前で、俺はハッキリと宣言した。
「そう!プゥは…熊のプゥさんになってしまうんだよ!!」
「「な、なんだってぇ!?」」
『……プゥ』
動揺が走る俺たちを前に、どうしたの君たちと言わんばかりに一鳴き溢す…熊の魔物、プゥなのであった。
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