第29話 この恨み、晴らさでおくべきか!
「朝ごはん?良いかねファトゥ、ご飯というものはその昔」
「店主さん、ご飯ください♪」
「あいよ。お金はその意地悪な勇者様にツケておくからね!」
「どぅぇっ!?いつの間にか俺が悪者に!」
勤労の有り難みを教えようと思っただけなのに、ファトゥは話も半ばに俺の横をすり抜けて女店主から朝ごはんを貰っていた。
パンにスープ、そしてサラダと健康的な朝ごはんである。
「……まぁ良いか。俺にも朝ごはん一つください、お代は二人分払いますので」
「何言ってるのさ!あんなに働いてくれたのに、お代なんて取ったらあたしこそ悪者だ。好きなだけ食べておくれ、おかわりもあるからね」
「わぁいやったにゃ〜♪」
「可愛らしいねぇ」
ちゃんと寝起きでも布は被っているファトゥ。
彼女が喜ぶ様を見てニコニコと見守ると、女店主はファトゥと向かい合って座った俺の前にも同じ朝ごはんを出してくれる。
「それじゃあお言葉に甘えて。いただきます」
「いただきます!」
女店主も交えて談笑しながら食べる朝ごはんはとても美味しくて、心も体も元気が溢れてくるほどに素敵なひとときだった。
〜〜〜〜〜
「此処に来て3日目!昨日は一度迷った甲斐もあって、そろそろ道がわかるようになってきたな」
「勇者は凄いね〜」
「君はもうちょっと覚える努力をしてくれ…」
「魚くれにゃ!」
「働けにゃ!」
鎧も剣も身につけ、ファトゥも装備を整え宿屋を出る。
路地や曲がり角を一つ一つ指差しで確認し頭の中の地図と照らし合わせていく。
「仕方ないな〜クエスト頑張ったら、ちゃんとまたお魚食べさせてよ?」
「食事代分を稼げたらな。悲しいことに、2日分の宿代とご飯代で今の手持ちは1,000円だし」
此方を見つめながら仕方ないやつだとばかりに笑われてしまった。
可愛いから許す!あともふもふだから。
「何か手頃なクエストがあれば良いけど。俺もファトゥも、まともな戦闘はまだだから程良いやつで」
「ふふーん!昨日のオオカミみたいに可愛いやつじゃなければ、ファトゥがちょちょいっと倒してやるにゃ」
「頼もしい限りだよ…」
その自信は何処から来るのか、とも思ったが指摘するのも野暮なので微苦笑に留めておき、俺たちは集会所へと足を踏み入れる。
「おういらっしゃい!勇者様ご一行!」
「二人だけどね。レイティさん、何だか筋肉増えた?」
「分かるか?流石は勇者様、お目が高い。受付嬢たるものいざという時のために鍛えておかなきゃな!」
そんな俺たちを受付で出迎えたのは勿論レイティさん。
しかし、茶髪でモノクルを付けていたはずの彼女はスキンヘッドの裸眼で身長も体格も二回りは大きくなっていた。
「俺も見習って筋トレしようかな、良い方法教えてくださいよ」
「よぉしそれじゃあ今日はクエストお休みで筋トレだ!」
「何処からツッコめば良いかにゃ…」
「全部です!!何やってるんですか所長!勇者様も悪ノリしないでください!」
どうやら所長だったらしい。…勿論、分かってたよ?
冗談は置いておくとして、受付裏の関係者通路から本当のレイティさんが飛び出してくる。
どうやら諸用で席を外していたところ、所長が代わっていたようだ。
「悪い悪い、つい勇者様がノリ良いんでな。今日もクエスト探しかい?」
「えぇ。次の街へ行くにしても、路銀とそこでの宿代くらいは稼いで行かないとまたダンジョンで寝泊まりしそうなので」
「ははは!勇者様は冗談も言えるんだな、そういうことなら良いクエストがあるぞ。此処を少し離れたところにある川に熊の魔物が住み着いたらしくてな、魚が狩られ始めているらしい」
快活に腰に手を当てて笑った所長はカウンターから一枚の張り紙を取り出し、俺とファトゥの前に見せる。
そこには熊の魔物を討伐しろと記載されていて、しかも既に被害が出始めていると来た。
「それは心を鬼にしてでも倒さないと。……というより」
チラリと横を見ればファトゥが燃えていた。
いや、当然実際に燃えているわけではないのだが、彼女のやる気が目に見えるくらい溢れているのである。
それはもう、東方どころか彼女の周囲全てが紅く燃えているほどに。
「魚を勝手に食べまくるなんて…羨ましい!絶対負けられないね、勇者!」
「あ、あぁ…食べ物の恨みを教えてやろうな」
「うん!!」
色々と言いたいことはあったが、俺も所長もレイティさんも彼女の気迫に押され余計なことは言うまいと目線だけで頷き合うのだった。
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