第25話 真実とベッドはいつも一つ!
『何だ何だ、喧嘩か〜?』
『嬢ちゃんだけじゃなくて飯も独占するつもりかよ!』
『譲ってやるのも甲斐性だぞぉ』
ファトゥと対峙する中、周囲の冒険者たちからやいのやいのと野次を飛ばされる。
いきなりのアウェー感!
だがしかし、勇者とはいつだって逆境に立たされるもの。これくらいはどうってことない!
『みみっちいやつ〜!』
『けちくさいやつ〜!』
『情けないやつ!』
「何がっ!!」
どうってことないが…!
それでも、返さずにはいられなかった。
「にゃふふ、どうするの勇者。この状況でもしトーファに勝って目の前で奪い取るなんてしたらどうなるかな〜?」
目深に被った布の奥で紫水晶が二つ揺らめく。
思わずぐるりと周囲を見回すと、例外なく此方をニヤニヤと見つめているではないか。
確かにこんな衆人環視の中で彼女を打ち負かしタンパク質を確保したとして。
得られる充足感と訪れる虚しさと罵詈雑言を天秤にかけた時、譲るか否かの天秤が傾くのは…間違いなく譲る方だろう。
「はぁ…分かった、トーファ。これは君に譲ろう。実を言うと、既に俺はお腹いっぱいだったから勝ってしまったらどうするか悩んでいた」
「むふふ、そういうことにしてあげる!じゃあいただきまぁす♪」
ガタッと飛び込むように椅子に座った自由な付き人は、周りの皆を味方につける見事な作戦で俺の下から魚をペロリと平らげてしまった。
「やるじゃねぇかあんちゃん!男気見せたな、惚れたぜぇ!」
「ええいむさくるしい!俺は男だよ!」
「バカ言うな、誰も小せえあんちゃんのけつなんざ追ってねぇよ!」
ファトゥがご馳走様と手を合わせたと同時にわっと湧き上がる酒場。
ファトゥも女性冒険者たちに囲まれる中、俺は野郎に囲まれ1人のガタイの良い男に肩を組まれる。
こう真正面から褒められるとそれはそれで照れくさかったので茶化すように大袈裟な反応を見せたら、向こうも合わせて勢いよく俺の背中を叩きゲラゲラと周囲の人間を笑わせた。
夜なのに騒いで申し訳なかったが、凄く楽しかったし女店主も楽しげにお酒の入った木のジョッキを片手に見ていたので良しとしよう。
それに、何よりも。
「にゃふふ…♪」
ファトゥが此方を真っ直ぐに、そして楽しそうに見てきたのだから。
俺がそんな可愛さを見せられて…勝てるわけなんて、無いだろう?
〜〜〜〜〜
「ねぇ勇者」
「何だねファトゥ」
「ベッド、一個しかないにゃ」
「そりゃあ…一部屋しか空いてなかったからね。ベッドも一個だろう」
食事を済ませ、抑えたつもりでもかなりの金額持っていかれた痛む懐のまま俺とファトゥは部屋に戻る。
2人して部屋に入って、先程は荷物を置きにきただけなのとご飯のことで頭がいっぱいで気付いていなかったが…何とこの部屋には、ベッドは一つしかない。
当然といえば当然だ。
「お風呂は交互に入れば良いけど、流石にベッドまで沢山あってはあの安さは成り立たないさ」
「ファトゥのクッションと違って、2人だと狭いにゃあ…」
「部屋そのものも広くはないが、立派なベッドと装備を置けるスペースに美味しいご飯とお風呂がある。文句は言いっこなしだぞ」
「……勇者、何だか嬉しそうだね」
「んん?そんなことないけどなぁ!」
嘘だ。真っ赤な嘘だ。
これだけ狭いベッド…ならば、不意な寝返りでもふもふに触ってしまうこともあるかもしれない!
不可抗力、そう仕方ないのだから!
……因みに、本当にこの部屋一つしか空いていなかった。もふもふに対する大義名分が欲しかったから俺が仕組んだなんてことは、ない。
「まぁひとまず寝床は寝る時にまた考えるとして。先にお風呂に入るか?俺は集会所から貰った魔法について読んでおきたい」
「勇者のえっち!覗く気でしょ!」
「違う!俺は純粋に…!」
「まさか残り湯を啜る気じゃ」
「早く君は入って来い!」
「はぁ〜い♪」
「全く…」
お風呂やらベッドやら…ファトゥには部屋の中だけでも揶揄われてばかりだ。
「俺は床で寝るとするかな」
後頭部を掻き半ばぼやくように呟くと、ポーチに入れていたハウトゥ本を取り出し今の内にとベッドへ座ると小冊子を広げる。
指でなぞりながら項目を流し見て…魔法について、の欄を見つけると真っ先にそのページを開くのだった。
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