第24話 敵対する運命なのか!

「勇者…やっぱり、トーファたちは分かり合えないんだよ」

「あぁ、とても悔しいけれど。俺と君は、対立する運命にあるらしい」


宿屋の奥にある、小さな酒場の中。


お互い装備を部屋に置いたラフな状態で一つのテーブルを挟んで対峙する。


「どうしてこんなことに、なっちゃったんだろう?」

「それは俺にも分からない。でも、きっと避けては通れなかった」


周囲の客も俺とファトゥの雰囲気に気付いたのか、全員が固唾を飲んで見守っている。


それらの中心にあるのは…一枚の皿と、その上に乗った一切れの焼き魚。


「最後に聞くぞ。大人しく…爪を収める気は無いんだな?」

「これだけは、勇者が相手でも譲れない!」

「……そうか」


グッと腰を落とすファトゥ。彼女を前にして、俺は自分の勇者としての使命を思い出す。


オッサン、俺…忘れてたよ。俺が旅立った目的、それは。


魔獣軍をギャフンと言わせること---!


「トーファ、決着を付けよう。」

「そうだね勇者…勝負だ」

「「この焼き魚を食べるのが、どちらなのか!!」」


俺の貴重なタンパク質、君が相手でも譲るものか!!


勇者と魔獣軍幹部。因縁の対決の火蓋が、酒場の中で壮絶に切って落とされる…!


その最中、俺は走馬灯のように1時間程前に此処へ辿り着いた時からの記憶を思い返していた。


あの時は、楽しかったのに…と。


〜〜〜〜〜


宿屋をノックして開けた俺は、彼女と一緒に中へと入った。


「いらっしゃい!お、あんたが噂の勇者様だね?此処は宿屋フランク、ゆっくりしていきな」

「驚いた…クエストを完了してから、そんなに時間は経ってないはずだが」

「何言ってんだい。昨日の時点でこの街に勇者様が従者を連れて現れたって、もっぱらの噂だよ」

「勇者は目立つからね〜」


横から布を被ったファトゥがにひひ〜と小悪魔的に笑う。


それが可愛くて、つい照れ隠しに目線を逸らしながら腕を組んで言い返す。


「君のその格好もだと思うぞ」

「火傷があるもん、こんなものは見せられない…貴方以外には♪」

「んなっ!?」

「はっはっは!何だ何だ、勇者様と言えどそっちは青いんだねぇ!」

「店主まで!?あぁ〜そうだあの、此処って一泊いくらですか!集会所の紹介で来たんですけど!」


宿屋の女店主にまで揶揄われるものだから、男としても勇者としても立つ瀬が無い。


慌てるあまり敬語になってしまうも、何とか強引に話題を切り替える。


それでもニヤニヤと笑われつつ女店主は話に乗ってくれた。


「集会所の紹介なら二人合わせて一泊1,000円で良いよ。紹介状はあるかい?」

「それはある。しかし、そんなに安くて大丈夫なのか?」

「構わないさね。此処に泊まる奴は大体冒険者、お酒と食事には糸目をつけない奴らが多いからそっちでたんまりだ」

「商魂たくましいなぁ…」


ファトゥの呟きに得意げに頷いた女店主に紹介状を見せ、ひとまず2階の奥部屋に2泊させてもらうことにした。


「本来なら食事代も掛かるが、まぁ初めてだろうし今夜の食事代は安くしておくよ」

「やったぁ!いっぱい食べれる〜!」


支払いを済ませながらの言葉に目を輝かせて喜ぶ付き人に、今度は俺と女店主が笑う番だった。


鍵を受け取った俺たちは装備を外し楽な格好になると、部屋の中でひとしきりゆったりして夕ご飯を食べに一階へと降りる。


「このお魚、凄く香ばしくて美味しいにゃ〜!」

「こっちの肉は何だろう、牛だろうか。たまらない!」


そして、魔獣軍の影響であろう少しお高い魚料理や肉料理を迷わず注文し俺たちは思うままに食べ進める。


周りのテーブルにもお酒や料理ではしゃぐ冒険者であろう人物たちが集まってきていた。


「…あれ、もう魚はこれで終わり?」

「んにゃ?」


お皿の上を見ると、夢中で食べるあまりいつの間にか皿の上は焼き魚一枚になっていた。


「ふぅむ。明日の為にも、これ以上の出費は…」

「と、いうことは…これが今日の最後の魚?」

「そうなるな」

「「……」」


美味しいご馳走に病みつきになる矢先での、この状況。


それが俺とファトゥを、逃れられない争いへと誘ったのだ。

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