第23話 逆の視点ってことか!?

「何で!?君地図見てたよな!?」

「う〜ん、おかしいなぁ…ん?」

「おぉ!道が分かった!?」


薄暗い路地裏の真ん中で紹介状兼地図である紙を両手で持ち、凝視していたファトゥ。


うんうんと頭を悩ませていると何かに気付いたような雰囲気がして、思わず前のめりになる。


そんな俺の期待を裏切るのを体現するが如く、くるりと紙を一回転させてペロリ舌を出して彼女は笑った。


「いつの間にか逆さまになってたにゃ♪」

「……そう言えば、ファトゥはダンジョンに家があるから泊まらなくても問題ないな?」

「に"ゃっ…」

「ご飯も自分で取れるから要らないかぁ。いやぁ良かった良かった、二人分がいくらになるか分からないし〜!」


ファトゥを俺の笑顔で驚かせている間にパシッ!と紹介状を取り上げる。


そして意地悪い発言に顔を青くすると、ガバッ!と強く俺の両腕を掴んできた。


「ご、ごめんにゃ勇者!ファトゥが悪かったから、ご飯抜きは許して!」

「ならば3周回ってワンと鳴けぃ!」

「ファトゥは猫なのに!?」

「ニャンだって!」

「これみよがし!!」


あんぐりと口を開けて驚愕するファトゥ。


うーん。名前が戻ってたり、猫の耳と尻尾がピンとして布が軽く浮いているけど、可愛いから良し!


あと、人影の無い路地裏だし。


それにしても、ファトゥを揶揄うのは楽しい…楽しいなぁ!


だがしかし。


「う〜〜!」


揶揄うことはあれど悲しませることがあっては、獣耳好きを名乗るものとして言語道断。


なので、瞳を潤ませるファトゥの頭をポフっと鎧のふんわりとした手で軽く撫でると努めて柔らかく笑った。


「悪い。ファトゥが良い反応を返してくれるものだから、つい揶揄ってしまったよ」

「な、あ…心臓に悪いにゃ!性質も悪いし!」

「ごめんごめ」

「意地悪!性悪!チョイ悪!」

「あっ結構畳み掛けるのか…」


どうやら思ったよりも目の前でご飯お預けになりかけたのがショックだったらしい。


彼女は俺と会うまで何を食べていたのだろう?何となく気になった。


「大体場所も分かったし。行こうか…トーファ」


まぁ食事の時についでに聞けば良い。ヒラヒラと紹介状を見せながら、俺はカシャカシャと小さな音を立てて歩き出す。


「……良かった、----」

「ん?」

「にゃんでもない♪」


ファトゥが何かを言った気がしたけれど、やや離れていたので一言しか聞こえなかった。


でもタタタッと小走りで駆け寄ってきたファトゥの顔は布の下でも笑顔だったので、敢えて追求するのも野暮ってものだろう。


「勇者、今日はいっぱい食べようね。お金入ったんだし、付き人にお礼があっても良いでしょう?」

「感謝したまえよ!」

「調子に乗っちゃダメ〜!」

「嫌われる前にやめておこうか」


小気味良い軽口を交わしながら、俺とファトゥは今度こそ宿屋へと向かって歩き出した。


〜〜〜〜〜


暫く路地裏を抜け、大通りに戻って少し。


地図に書かれた店の位置と周辺の道を照らし合わせ、目の前の木の扉の先が目的の宿屋であることをしっかりと確認する。


「勇者が道に迷ったからちょうど良い運動になったね!」

「俺が迷ったことになってるが!?よく思い出してみてくれ!」

「トーファは振り返らないのにゃ!」

「それが迷った原因か…?」


相変わらずの我が付き人に微苦笑しながら、コンコンコンと3回ノックしてから扉を開けた。


……まさか、この扉の先で俺とファトゥがあんなことになろうとは。


俺たちはまだ、知る由もなかった。

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