第22話 迷子の迷子の子猫さん!

「そうだ、レディバさん」

「いや私ポケットの中の友達では」

「そうだよ勇者。ゴディバさんだよ!」

「いえ美味しいチョコのお店でも」

「ごめんなさいダディアナざん」

「何故間違えるんです!?」


いけない。聞きたいことがあったのだが、ついふざけてしまった。


話を戻して。


「レイティさん。鑑定魔法って教えてもらえるんですか?」

「すみません、鑑定魔法は集会所の者しか教えてはいけない規約になっているんです…」

「業務独占というわけですね。いえいえ、無理を言ってごめんなさい」


集会所の特権のようなものだろう。


まぁ、鑑定魔法なんて冒険者側からしたら仮にお宝とか見つけた時に本物か贋作か判断するくらいにしか使わないか。


直ぐに納得して引いた俺に、やはり色々苦労はあるのかホッとした様子でレイティさんは微笑んだ。


「ありがとうございます!でも、お安い宿でしたら此方でご紹介しますよ」

「それは有り難い!渡りに船です!」

「マグロ乗ってます?」

「ご期待ください!?」

「マグロぉ!?」

「こらトーファ、落ち着きなさい」


うっかり魚の話になってしまい、ファトゥが被った布の下で目の色を変える。


平静を装ってそれを宥めていると、何かを思い出したようにポンとレイティが手を合わせ此方に話しかけてきた。


「勇者様、もし仮に鑑定魔法を教えても今の勇者様には使えないですよ?」

「ん?レベルが足りないとか?」

「いえいえ。それには、魔法の原理が関わってくるんですね。此方、駆け出し冒険者の皆様へお配りしてる所謂ハウトゥ本です。


宿に着いてからゆっくりとお読みくださいな、此方が紹介状になりますので」

「ありがとうございます」

「ありがとうに…ありがとう!」

「?」


彼女の手から小冊子と一枚の折り畳まれた紙を受け取る。


それを広げてみると、この集会所の入り口にあった看板のマークの同じ印鑑が押され集会所認定の冒険者であるという文言が書かれている…どうやら、クエストを一つでも達成することが認定される条件らしい。


クリアする前に宿を聞いていたら、教えてくれなかったかもしれないな。


危うくいつもの口癖を出しかけ小首を傾げるレイティさんに礼を言って、足早にその場を後にした。


「危なかったな、トーファ。もしバレていたら」

「うん…魚がもう食べられなくなるところだった」

「そこじゃな、いやそうなのか?」


此処の人たちのことだし、物理的折檻よりもそういう処罰の方を下しそうだ。


あながち間違いでもない、かも?


「まぁ良いか。あの分ならバレてない、ひとまず此処に書かれてる宿に向かおう」

「二人合わせて何泊出来るのかな」

「俺も君も宿の相場は知らないが…少なくとも一泊は出来るはずだ。でなければ、レイティさんが紹介するはずもない」

「うん、それもそうだ!レッツゴー!」

「全く…俺が稼いだお金だぞ?」


紹介状に記載されている地図を頼りに歩き出す付き人にやれやれと肩を竦めながら、その後を追うように歩き出す。


流石に、今夜は鉄球に追われたりせずに済みそうだ。


お風呂にも入れると良いが、せめて水だけでも桶に溜めさせてくれたら有り難い。


「ところで勇者」

「何だ?」


布の下から紫水晶の瞳を覗かせながら振り返り、器用に後ろ歩きしながらファトゥは俺にこんなことを聞いてきた。


「何でレイティには敬語なの?」

「受付嬢だからな。ビジネス相手には丁寧にいかないと」

「トーファは?」

「パーティメンバーだから堅苦しいことはなし」

「ふーん、そっかそっか♪」


くるんっとまた前を向いて歩くファトゥ。


何だったのか…と思っていたら、わさわさと布に覆われたシルエットが揺れ動いてるのが見えた。


耳と尻尾が揺れているのだろう。それを想像すると、まるで無邪気な子供のように思えて。


ついくすりと、笑ってしまうのだった。












「……あれ?此処何処?」

「誰か地元の人呼んでぇ!」

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