第21話 不思議な不思議な異世界だなぁ
「あ!勇者さん、トーファさん!おかえりなさいっ」
「ただいま、レイティさん」
「ただいま〜」
クトスの街へと戻った俺たちは早速集会所に報告しにやって来た。
トーファとは俺がこの街に入る際ファトゥの身分を偽るために、適当だがそれなりに考えて付けた名前だ。
彼女が布を被っている理由は顔にひどい火傷の痕があるという、ありきたりではあるもののわざわざめくってまで確認しようとする人が少ないだろう理由にしてある。
立場は奴隷とかではなく付き人。俺の身分が勇者なので、これはすんなりと受け入れられた。
「では討伐の証を此処に」
周囲では悠々自適にお酒や料理を堪能したり、真剣な顔つきでリストやクエストの張り紙を囲む冒険者がちらほらと見える。
少し視線が集まっている気がしてやや緊張するが此処は堂々としていよう。
「これ、なんですけど…」
オオカミに取らせて貰った毛を、器用にもファトゥが近くの草で纏めたものを差し出された木の器の中へ置いた。
「ふむふむ?」
モノクルに指をかけ毛を覗き込むレイティ。
『もし嘘付いても鑑定魔法でバレちゃいますからね!信用問題になるので、気を付けてください♪』
クエストを受領する際に笑顔で威圧されたことを思い出し、ドキドキと鼓動が強くなる。
「大丈夫」
「え?」
「鑑定魔法が見えるのはそれが何処にあったか、そして誰のものかだけ。今の情報は見れないよ」
「なるほど…」
瞳の紫水晶を細めながら俺にだけ聞こえる声で囁くファトゥは、今までになく頼もしい。
漸く魔獣軍の幹部らしいところを見れたな…と思っていると受付嬢レイティに動きが見えた。
「はい!これは間違いなく周辺の『導きの森』で目撃されたオオカミ型の魔物の毛ですね!」
「では」
「クエスト達成です、勇者様♪」
可愛らしい笑顔でグッと軽いガッツポーズをして労ってくれる姿に、俺は安堵の息を吐く。
「それにしても…勇者様」
「どうしました?」
「勇者様は、オオカミって嫌いですか?」
「えっ…何故」
「私は写真で見ただけですが、あんなにも可愛いのに…」
「魔物ですよね!?」
急に俺よりも狩られたであろう魔物を気遣うような目をされ、思わず慌てる俺。
「ふふっ、冗談です♪お疲れ様でした!此方が報酬の5,000円です!」
が、どうやら揶揄われたらしい。すぐにコロッと明るい笑顔に戻ったけれど、流石に肝が冷えたな…。
5,000円と言われながら返された五つの金色の硬貨。
「こっちだと紙じゃなくて硬貨の方が上等なお金なのか」
「そういえば、勇者様は違う世界から来られたんでしたね。此方では紙よりも硬貨の方が希少なんです、何せ鉱山といえば魔物や魔獣軍が棲家にしやすいですから」
「あぁ、それは納得だ。まぁ俺としてもその方が懐が嵩張らなくて良い」
また少しこの世界のことについて知ることが出来た。チラリ、と隣のトーファさんを見ると口笛を吹きながら明後日の方向を向いている。
多分彼女たちからしたら、鉱山の鉱石そのものには興味ないんだろう…『この鉱山で鉱石を掘りたかったら魚を寄越せ〜!』とべらぼうな数要求していそうだ。
和平交渉の時はそこら辺も話し合わなきゃな、と一つ議題を頭の中で増やしつつ報酬を受け取りポーチ内のポケットへと入れる。
「あぁ、でももう一つ聞いてもいいだろうか」
「何でしょう?」
「本当にあの魔物1匹でこんなに貰っても良いの?」
「勿論です。…これだけ出しても、可愛さゆえに失敗する方が後を絶たないので」
やっぱり人も魔獣軍も心根は穏やかなのか?
緊迫してるんだかそうじゃないのか分からない異世界に、俺はガックリと肩を落とす。
その様を、隣からキョトンと不思議そうな顔でファトゥが見ていた。
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