第20話 対話できるって、幸せだよな
「どうしたものかなぁ…」
そう言いながら俺はその場で胡座を組む。
そよ風から感じる草木の香りが、何とも気分を落ち着かせて筋肉痛を癒してくれるかのようだ。
マイナスイオンってやつかも知れない。まぁ仮にそうだとしても筋肉痛を癒す効果なんて存在しないけれど。
「そうだ!毛を何本か貰って、それを討伐報酬ってことにしたら良いにゃ!他のモンスターとかは分からないけど、魔物は色が分かりやすいから」
「なるほど、確かに悪さをしないようであれば討伐したってことにしてもいいだろう。しかし…どうやって伝えたものかな」
「ファトゥも勇者も、魔法使えないものね」
後ろ足でカリカリと耳の後ろを掻くオオカミを二人で眺めながら、また別の問題に行き当たる。
俺もファトゥも翻訳魔法なんて使えないので『君を倒したくないので毛を分けてそれを証にしたい』なんて、伝えることはできない。
かといってこのままでは埒が開かないし…かくなる上は!
「……」
「え?何でファトゥの尻尾をそんなに見るにゃ?ま、まさかこのもふもふに手をつける気!?あの勇者が!?」
「いやまぁ絶対しないけれど。本来なら勇者としては懲らしめるべきなんだよな」
ガバッと自分の尻尾を抱き寄せ紫水晶の瞳を潤ませながら、耳まで伏せてファトゥが震え始める。
何だかそれを見てると先程のオオカミを見ているようで、心が和んだ。
思わず微苦笑を溢しながら肩を竦めてポツリと溢す。
「今更じゃない?」
「俺もそう思うな」
ゆっくり立ち上がると、数歩オオカミの魔物へと歩み寄り片膝を突く。
『わふ…?』
赤いつぶらな瞳で俺の顔を見つめながら、小さく鳴いた口を見ると牙はしっかりと生えていた。
噛まれたら痛いだろうな…しかし、万が一でもファトゥの綺麗な手に傷を負わせるわけにはいかない。
餌の一つでもあれば良かったが、無いものはねだれないのでこれまでの流れから見出した、とある可能性に賭けてみよう。
「なぁ。俺もお前を傷つけたくはない、けど生活が掛かってる…だから少しだけ、お前の毛をくれないか?」
『……』
その可能性とはつまり、俺たちの言葉が分かっているかも知れないということだ。
俺が居た日本では犬の祖先は狼だと言われている。そしてその狼は、群れを成して生活できるほど頭が良い。
生憎俺はまだ香辛料の乗った体にはなれていないが…それはひとまず置いておくとして。
もし本当に、言葉が分かっているのなら…!
「勇者」
「ファトゥ?」
2秒ほどオオカミと目線を合わせリアクションを待っていると、ポンとファトゥの手が俺の肩に乗せられる。
そして、フッと何故か憐れむような眼差しをして俺に優しく語り掛けた。
「友達ならファトゥがなってあげるにゃ。だからそんな寂しいことは」
「違う、そうじゃない!そんな悲しい理由で此奴に話しかけているわけではないんだ…!」
「皆まで言わなくていいよ。大丈夫、一人旅で寂しかったんだよね…あとお金ないし」
「俺の話を聞いてくれ!?」
「五文字だけなら」
「五分すら」
話が全く進まない俺たちの横で、『クァァァ…』と思い切りオオカミが欠伸をして横に伸びた。
そしてチラリと此方を見ているので、何となくだが早くしろと言われている気がする。
「ありがとう…お前は話が分かるな」
「にゃーん!?」
スルーされて思い切りショックを受けたような声を出すファトゥ。
後で沢山構ってあげよう、そう思いつつ今手元にある唯一の刃物…剣でシャッとお腹の毛を切らせてもらうのだった。
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