第19話 こんなに天気もいいんだからさ
「でも、どうするにゃ?討伐しないとクエスト失敗だよ」
「分かってるさ!だから、俺たちの優しさという光を見せなくちゃいけないんだろ!?」
「狼の魔物1匹でクライマックスすぎるって!」
しかし、そうは言っても此方は脇腹や足が筋肉痛であまり動けない。
対するワン…オオカミの魔物の方も、身を屈めて唸ってはいるが瞳はつぶらで耳と尻尾が若干伏せている。
明らかに怯えているよな、これ。
「困ったなぁ…」
一度抜いた剣を鞘に収めて腕を組む。
ファトゥも此方の戦意が抜けたのが分かったのか、小さく草を踏む音をさせながら俺の隣へ並んだ。
オオカミの魔物は、以前小さく唸って震えたままである。
「ねぇ勇者」
「何だねファトゥソンくん」
「言いづらくない!?ってそれはどうでもいいや、ファトゥたちってさ」
「うむ」
「戦うの…下手っぴ?」
恐る恐る、ファトゥ自身も認めたくないであろう事実を彼女は口にした。
けれど俺はまだそれを認めるわけにはいかない。まだ、戦える!
「それ以上はいけない!まだ誰にもバレてないんだから!」
「そ、そうだね!ファトゥは魔獣軍幹部で、勇者は勇者なんだから!」
「そうだ!勇ましい者…それが俺なんだよ」
グッと握り拳を作り、魔物を見据えて睨む。
『クゥゥン…』
「ダメだぁぁぁ!!」
怖かったのか、ついに威嚇も忘れて丸くなる魔物に激しく心を揺さぶられ膝からドシャッとその場に崩れ落ちた。
「ごめん、ごめんなぁ…もふもふに手を出すなんて俺には出来ない!」
「そんな、勇者が一撃でやられたにゃ!?」
ファトゥが魔物と俺の間で視線を彷徨わせ、愕然とする。布の下でその黒い猫の耳と尻尾も絶え間なく揺らめいてるので、彼女も動揺しているらしい。
「ファトゥ。後は、頼んだ…」
「にゃんですと!?ええい、ファトゥも追い出してしまった責任取らなきゃだし心を鬼にして!」
バッと爪を見せ威嚇し、獲物を狙うように前屈みになるファトゥ。
流石は曲がりなりにも幹部!これならきっと、魔物を仕留められるはずだ。
『クゥン!』
「駄目にゃぁぁ!強すぎる、ファトゥの爪も敵わないよ〜!」
「仕方ない、相手が悪い。これは君は悪くないさ…!」
しかし、その彼女すらベシャッと腰を上げたまま四つん這いみたいに倒れ込んでしまった。
オオカミの魔物、何という強敵。
俺はこの世界に来てから今の所もふもふばかり相手にしてきているが、真っ当に勝てた試しがない。
でも、もふもふ好きの端くれとして腕っぷしに訴えるのは最終手段でも取りたくないからな…。
「どうするにゃ、この状況」
『ワウ?』
「いや魔物に聞いても仕方ないだろう」
『ワフッ』
漸く魔物も俺たちがすぐには行動を起こさないと悟ったようで、声を掛けると一鳴き返事を返してくる。
距離は縮めてこないが、ひとまず敵かどうかの判断は保留にしてくれるようだ。
「ファトゥ」
「んにゃ?」
「そもそも…あぁいや何でもない」
「今絶対ファトゥに聞いてもわからないって思ったでしょ!?バカにするにゃ〜!」
「え?バカにしろってこと?」
「違うにゃ〜!!」
「HAHAHA⭐︎」
『クァ〜…ハフ』
異世界二日目。ギャフンと言わせるべき相手の魔獣軍幹部と並んで、倒すべき魔物のオオカミと距離を保って座る。そんな、森の中。
差し込む木漏れ日は穏やかで…早くも俺はレベルアップを諦めつつあった。
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