第18話 これが最強の力…!
朝の匂いに目が覚めた。
朝特有のシンとした空気が最初は朧げだった意識を覚醒させ、ゆっくりと体を起こす。
何だかやや重たい気がする…というより、なんか痛い?
「あたたっ!これ筋肉痛か…?」
足の付け根辺りとか脇腹が動かすと微妙に違和感を感じる。恐らく昨日鉄球に追い回された挙句、直後にキャッキャウフフとファトゥとはしゃいでしまったからだな。
調子に乗り過ぎた…何だったら、俺に至ってはガッツリとした鎧付けて走ってたし。
昨日外す時に気付いたけどこの鎧は軽いらしい。俺一人でも楽に取り外せたくらいだから、軽量化の魔法でもかかっているのだろう。
まぁ、俺もファトゥも魔法を使えないから何らかの理由でそれが失われた場合此奴とはおさらばだ。
「……その時は金にでもするか」
「んにゅ…お金?」
俺の独り言に、いつの間にか起きていたらしいファトゥがくしくしと目元を擦りながら反応する。
その髪は少し乱れている…寝癖でも付いたかな。
街の中や周辺だと布を被って誤魔化すから直す必要は無いのだが。
「ファトゥ、ちょっと失礼。髪が傷んだら勿体無いぞ」
「ん〜、くるしゅうない」
それはそれとして、その綺麗な黒髪がボロボロになるのは惜しいと思う。
ぽわぽわとした様子で大人しくなるファトゥの後ろに座り、滑らかに腰まで伸びるその髪をそっと直して枝毛も無いかを確認してから手を離した。
「これで良し、と。じゃあ行こうか」
「ん、うう…。楽して稼げるお金は無いってことだね」
「オッサンたちがお金入れてくれてたら、こんなことにはならなかったんだが」
我々のせいじゃないって声が聞こえた気がするが、気のせいだな!
「そのオッサンにお金貰いに行くのは?」
「あぁ、俺も最初はそう考えた」
「最初はってことは、今は違うんだ」
「そう。あの人のことだから多分『勇者とはいえ労働はするものだぞ』と、社会勉強という名目で俺に金を渡すのを渋る未来しか見えない!」
「世知辛いにゃあ…」
ファトゥが遠い目をして呟く。まぁ、世の中そんなに甘くないってことだ。
例えそれが異世界といえど。
軋む体に鞭打って、俺たちは装備を整えるとシャキッと立ち上がり向かい合う。
「んじゃあ、クエストを受けに出発するぞ〜!」
「いいとも〜!」
バッと拳を上に突き出して鼓舞し合い、いよいよ俺たちはダンジョンを出てクトスの街の集会場へと足を向けるのだった。
〜〜〜〜〜
『グウウウウ…』
「……」
『ガルルルル…!』
「……」
『ガウウウウ!』
クエストを受けるには、手数料が必要だった。ただ俺が勇者ということもあり特別にそれは免除された。
代わりに国王へ請求するらしい。額は大したものじゃなかったし、何か言われる心配もないと思う。
本来は冒険者であれば全員支払うものらしいのだが…。
この世界における冒険者とは、ギルドに所属している人員という意味ではなくクエストによって生計を立てている人たちを指すものらしい。
手数料はそんな身分の安定しない人たちに、仮で身分を用意する名目で支払いが義務付けられているとのこと。
つまり、勇者と身分が確定している俺にそれは必要ないのだ。
そこは素直に助かるし今回受けたクエストもオオカミ型の魔物を討伐せよ、というシンプルなもので腕ならしがてら良いかと受領したが…。
「何か、つぶらな目してるにゃ」
「あぁ…」
近くの森で発見したそいつは、黒い体に赤いラインが入ったオオカミだった。それらは魔物の特徴なので目標に間違いはない、はずだけど。
目が、その。思いっきりワンコみたいに可愛らしいのである。
『ワンワン!!』
あぁほらワンって言ってるし…!
もしかしてこれ、純粋に可愛いから倒せなくてクエストになったんじゃない?
「くっ!こんなところで最強と相対するとは!」
「可愛いんだね、勇者から見ても…」
隣のファトゥが爆笑しているのが、フードのような布越しでもよく分かった。
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