第17話 おやすみ!…もふもふは無いけど(´;ω;`)
「じゃじゃ〜ん!此処がファトゥのお部屋で〜す!」
「おぉ…生まれてこの方、女子の部屋なんて入ったことなかったから新鮮だ…!」
部屋の中に入るとそこは未知なる世界!…ではないけれど、初めて自分以外の人の部屋に入った時特有のワクワク感に溢れていた。
部屋の隅の大きく柔らかそうなクッションはベット代わりだろうし、中央の木で作られた長机と丸椅子はダンジョンの中の雰囲気と合っていて心が落ち着く。
「……しかし、あれだな」
「家具が少ないにゃ?」
「まぁそれもあるけど。てっきり、魚に溢れてると思っていたから」
「奪った側から食べ尽くしちゃうんだぁ」
「貯蓄はしない主義か!?」
「残してて腐ったら勿体無いにゃ!食べたくなったら奪ってたもん…」
魔獣軍が何だかんだで恐れられる理由が分かった気がする…まぁ、食事も溜め込まないならば冷蔵庫が無いのも頷けるというもの。
明日から本格的に活動スタートだし、とりあえず今日のところは休むとしようか。
しかし、その前に。
「ファトゥ」
「ん?」
「モフらせてください!」
「どうしようかにゃ〜」
お?これは…?
そげなく断られるかと思っていたが、思いの外反応は悪くない。
顎に人差し指を当てて瞼を閉じついと上を向いて尾をゆらりと揺らす様は、考え込む仕草そのものである。
数秒待っても逡巡しているのでカシャカシャと鎧を外し邪魔にならないところへと寄せ置いた。
「もう少し鍛えてからかにゃあ」
「筋肉で断られた!?チィ!」
「冗談冗談♪そう簡単には触らせないよ、勿体ぶってるときの勇者の反応が楽しいからお預け」
「ぐぬぬ…いつか絶対モフらせてもらうからな!俺はもふもふが大好きなんだ、何年経とうと諦めない!」
「先に魔王様に会えちゃいそうにゃ!」
「魔王ミィも絶対にモフってみせる!勇者の名にかけて!」
「そこまで一途に追い求められるなら、確かに勇者かもしれないね…」
ファトゥに苦笑いを溢されるが、この思いはそう簡単に止められるものではない。
俺の目に狂いがなければ間違いなくミィのもふもふは至高の手触りのはず。
あの毛並み、俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「とりあえず今日のところは寝よう。明日からのクエスト、君にも手伝ってもらうつもりだからよろしく」
「え〜?お昼寝してたいな〜」
「いつもそんなことしてるのか!?この辺りに魔物が出るようになったのは、ファトゥがダンジョンから追い出したせいだろ?」
「ライフで受けるにゃ!」
「図星か…」
うぅと控えめな胸を押さえる素振りを見せ大袈裟に痛がるファトゥ。すぐににゃふふ、と顔を上げて笑うと自身も装備を机の上に纏めぼふっとクッションに倒れ込んだ。
その大きさはすっぽりファトゥを包み込み、隣で俺が寝転がっても寝返り打てそうなサイズに見える。
「へにゃあ〜」
「猫もダメにするクッション、実に面白い」
「勇者も添い寝する?」
「え!?良いの!?」
首を持ち上げてそんなことを言うものだから、恥も外聞も捨てて前のめりに聞き返してしまった。
ぱちくりと紫水晶の瞳を瞬きさせ、黒い猫の耳を揺れ動かしたファトゥ。
彼女の表情は…ニヤリと、意地悪な顔に変化する。
「う•そ•にゃ♪」
「ヌガァァァ!!」
弄ばれているのか!悔しい、でも!
「ファトゥたちは協力関係になったけど、まだ敵同士だからね。忘れちゃダメだよ…おやすみ、勇者」
「あぁ…おやすみ、ファトゥ」
「うん」
寝る前の挨拶を交わして、ファトゥは四肢と尻尾を贅沢に投げ出して大の字で眠りに就くようだ。
俺はというと幸い地べたではなく積まれた藁の上を貸してもらえたので、そこに寝転がり毛布を被る。
「敵同士、か」
彼女に背を向けて小さく1人、呟いてみる。
出会った時こそ敵対していたがお互い痛いことは嫌だったりとか、トラップに追われ生き延びた今となっては俺の中から彼女への警戒心はもはや無いに等しい。
何度も勇者としてそれは、と悩んだが…無理なものは無理だ。俺は元来大のもふもふ好きだし。
彼女の言動からも俺と似たような仲間意識を感じるけれど…それは協力関係だからなのか。
いつか、それも出来るだけ早く心から仲間だと思ってくれたら良いのだけれど。
クエストと一緒にそれも頑張っていこう。
そんなことを考えながら、俺は徐々に意識が薄れ。やがて、意識は沈んでいくのだった。
「……勇者」
俺を呼ぶ優しい声を、確かに聞きながら。
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