第16話 仮面に隠れたのは涙とは限らない?

「やっと地上に戻って来れた〜!」


ファトゥとバンザーイ、バンザーイとダンジョンの入り口にて万歳して喜ぶ。


「さて、と…」

「ん?」


すっかり日も暮れ満点の星空となった夜空を眺めると、道中でいつの間にかファトゥから取れていた布を取り出しダンジョンの中へと戻った。


「あれ?勇者、折角出られたのに戻るの」

「ファトゥ。俺たち、すっかり忘れてたんだけどさ」

「うん」

「此処には……寝泊まりに来たはずだよな?」

「----にゃあ」


思い切り忘れていたけれど、俺たちの最終目標は魔王に会ってモフモフすること…は俺の最終目標か。


改めて、俺たちの最終目標は魔王ミィと出会い人間たちと和平を結ばせること。


しかし…ファトゥの記憶力は若干頼りにしづらい上に、俺たちは先立つものつまりお金がビタイチ無い!


なので明日から情報を集めがてらクトスの街でクエストを受けることにして、今夜はファトゥのダンジョンに寝泊まりさせてもうことにしたのだ。


……ということを、ダンジョンの入り口まで戻ってから思い出したのが俺である。


だが仕方ないだろう。ダンジョンに入って一歩でいきなり即死トラップ級の洗礼を受けたのだから。


「ファトゥの部屋って何処だ?」

「乙女の秘密を暴く気にゃ!」

「そんにゃわけ…そんなわけないだろ!」

「移ったね」

「そんなわけないだろ!」

「天丼!?」


トラップはもう無いはずなので、先程進めなかった一層を真っ直ぐ進む。


耳と尻尾をピーン!と伸ばして紫水晶の瞳を見開いたファトゥに、ドヤ顔しながらチッチッチと指を振ってみせた。


「ふふふ甘いなファトゥ。ボケとはこうやるのだよ」

「ぐぬぬ、流石は勇者…つまり勇者はボケもツッコミもこなすオールマイティってことにゃ」

「約束だ!」

「絶対守るマンだったか〜」


段々眠気が押し寄せてきたのか少しずつ間延びし始めるファトゥの声。


間も無く一枚の木の扉に隔てられた最奥に辿り着いた。


「もしかして、此処がファトゥの部屋?」

「そうだよ。いらっしゃいにゃ」

「こんな一層で…誰か来たら危ないんじゃ」

「誰も来ないよ、普通のダンジョンだと思われてるからね」

「なるほど!じゃあ、俺はこの扉の前で寝させてもらおうかな」


ベッドで眠ることはできなくても、安心して鎧を脱いで雨風凌いで眠れる…御の字の域だろう。


手に持っていた布を敷いてから、装備を外そうとカチャリと腰の剣に手をかけた時。


「ん〜……」

「?」


腕を組んでファトゥが何かを考えるように呻き始めた。


ゆらりゆらりと尻尾や耳が揺れる様を拝見していると…うん、と一言何かを決めると細めた瞳を此方に向けながらこんなことを言ってくる。


「魔王様との和平が上手くいったら…沢山お魚を食べさせて欲しいな」

「それは構わないが、和平が上手くいく保証は無いぞ?」

「それは大丈夫だよ!勇者なら、きっと」


何故ファトゥがそこまで自信たっぷりなのかは分からない。でも…その眼差しには、引き込まれる何かを感じた。


「あぁ、分かった。きっとオッサン…王様が喜んで食べさせてくれるはずだ」

「そっかそっか!にゃら…どうぞ、今夜だけ特別に」

「ヴェッ!?」


キィ…と開けられた扉の先からは、微かに女の子特有の甘い匂いが漂ってくる。


「いや、俺はそこまで期待しては!」

「此処まで来たなら変わらないでしょ?一応敵とはいえ、使者は歓迎するものにゃ〜」


にゃふふと笑うファトゥ。本当に雨風さえ凌げれば…としか考えていなかったが、入れてもらえるならば有り難く入れてもらおうか。


彼女に案内されるまま、俺はダンジョンの奥にあるファトゥの部屋へとお呼ばれされるのだった。


……勇者が魔獣軍の幹部と1日目から同じ部屋に寝泊まりなんて、王様が聞いたら卒倒するかもな。


なんて、内心で苦笑いを溢しながら。

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