第14話 メガシャキってスゲー!

「はぁ、はぁ…!」

「ど、どうしよう!このままじゃぺしゃんこにゃ!」


ゴロゴロゴロ!と鉄球が転がる中、死に物狂いで俺たちは駆け回る。


「どうしようって、この後どうなるんだ!?」

「この後は…ある程度進んだら穴にストンと落ちて鉄球が止まる!」

「おぉ!?」

「と良いなあ」

「願望かぁ!!」


ぬか喜びをさせられ走りながらも頭を抱えてしまった。


「ところで勇者!」

「何だ!?生憎俺は魔法なんてビタイチ使えない!」

「いや!勇者って、鎧付けてるのに結構走れるね!」

「走らなきゃ死ぬからね!?」


とはいうものの、俺自身よく分かっていないのが現状である。


鎧が元々軽い材質なのかこちらが走る時は軽くなる魔法がかけられているのか。


或いは単純にランナーズハイで重さなんて気にしていられないのか…個人的には最後のが1番有り得そうなのが悲しいところ。


しかし、この際なんだって良い!


「ファトゥ!」

「何かな!?」

「もう一度思い出してみてくれ!この後はどうなる!俺たちの体力が尽きるまで追いかける無限地獄なのか!?」

「うーん、そんなに広くなかったはずだけど」


器用に腕を組み小首を傾げながら走るファトゥ。流石は魔獣軍、こんな状況でも余裕らしい。


「あぁでも頭がパニックで分からないにゃぁ!助けてぇ!」


そんなことは無かった。


「くっ、流石に…苦しいな…」

「諦めたら駄目だよ!ダニィとグレッグはまだ生きてる!」

「誰だそいつら!?」

「あ、あそこに穴があるにゃ!」

「よし!とりあえず飛び込もう!」


ファトゥが見つけた穴というのが怪しさ満点だが、背に腹は代えられない。


今は少しでも生き延びなければ!


異世界に来て最初に命の危機を感じるのが鉄球…奇天烈過ぎるけれど、それもまた一興か。


「「それぇ!!」


ファトゥは頭から、俺は足から穴へ飛び込み身を伏せる。


1秒の間もなくドドドド!重低音と砂埃を撒き散らしながら鉄球が駆け抜け、ズゥゥゥン!とダンジョンを揺らすほどの衝撃に襲われた。


「ふぅ…何とか生き延びた」


中は乱雑に穿たれており、自然と穴が開いていたらしい。ドッと疲れが押し寄せ、尻餅をつくと…。


「ぎにゃぁぁぁ!!」

「何事だ!?」


ファトゥが悲鳴を上げてジタバタとのたうちまわり始めた。


ビシバシと尻尾や足に蹴られ叩かれ、ちょっとよろしくない性癖に目覚めそうになりつつも問いかける。


「砂埃が目に入っていだい…」

「おいたわしや」

「本当にそう思ってる!?」

「勿論」

「どれくらい信じられる?」

「2ポンド賭けても良いよ」

「何にゃそれ…あいたたた」


涙目で耳と尻尾をだらんと伏せ、指で目を拭おうとするファトゥ。


「こらこら!そんなことしたら目が傷つくぞ、ほらこれ使って」


慌てて止めに入りその手に俺のポーチにあった唯一の水分を手渡した。


「ありがとう!……ぁぁぁぁぁ!!何だか目がすごいギンギンするぅ!?」

「多分ポーションの力で目が活性化してるんだろう」

「なるほど、目薬ってことだね!」

「……あぁ!よく分かったなファトゥ、凄い!」

「むふふ〜!でもこれ凄いよ、目がさっきよりもよく見える!」


ただただポーションくらいしか流せるものがなかったのだが…温泉や海みたいに目がしばしばするようなことにならなくて良かった!


やっぱりもふもふが苦しむのは見たくないからな、うんうん。


腕を組んで自分の懸命な判断をひとしきり誇ってから、俺たちは穴を這い出して上へ戻る道を探し始めた。

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