第12話 この世はやっぱり…

「ねぇ、ところで勇者」

「ん?」


すれ違う人たちにチラチラと見られながら露店の立ち並ぶ街道の端を歩く。


そんな中、トーファことファトゥが此方を覗き込むようにして訊ねてきた。


「お金持ってるの?」

「あぁ!そりゃあ勿論……」


腰のポーチをガサゴソと弄る。


えーっと、火打石にポーションに冒険の手引書…後は包まれた干し肉か。


「無いね!!」


あのオッサン絶対財布入れ忘れただろ!!いやオッサンが用意したものか分からないけども。


「駄目じゃんか!どうする…かにぁ?」


慌てて声を荒げるファトゥだが、流石に此処でどうどうとにゃっと言って目立つのは避けたいらしい。


咄嗟に誤魔化すように声を落として囁いた。


よく見れば、布の下でファサファサと耳が揺れ動いている。


「うーん…今から戻るとなると、道中の森辺りで野宿になるな」


茜色に染まる空を見上げて呟く。


道中もそれなりの距離だった上に、今日に限っては魔王ミィとの邂逅もあり足止めを食らっていた。


俺としてはもっと彼女とそのもふもふを見て堪能させて欲しかったが…曲がりなりにも勇者として召喚された以上、頑張るしかないと旅立ちその先でファトゥとジャンケンして今に至る。


走るのは疲れるし、急いだところで何処かで夜になってしまうことに違いはない。


「でも、ご飯食べるのも宿に泊まるのもお金掛かるよ?」

「そうなんだよな…」


くっ…お腹空いたし、宿には泊まれそうもないし。


治安は悪いだろうけど路地裏でこっそり眠らせてもらうしかないか。


ファトゥは近くのダンジョンに住んでるらしいから、明日また街のはずれとかで合流だろうか。


「まぁそれは何とかするさ。最悪、勇者特権か何かで1日くらい融通してくれるかもしれないし。トーファは向こうに戻るのか?」


辺りを見回しながら、あまりやりたくはない権力行使や観光と言って街の様子を見て回るか…なんて考えながら聞いてみると。


「野宿は危険だよ〜?」

「えっ、もしかして街の中とか此処の周辺でも魔物って出るのか!?ダンジョンから出てくるとか…?」

「魔物はあんまり出てこないけど。想像してみてよ、勇者ともあろうものが召喚されたその日に野宿…しかも無一文!」

「うっ」

「しかも、たった一人ぼっちで」

「うぅっ!」

「大好きなもふもふに包まれることもなく、夜を泣き明かす羽目になる…!勇者の心は持つのかな!?」

「ぐぁぁぁ!!」


咄嗟に細い路地裏に逃げ込んで頭を抱えてしまう。


そんな、もふもふの無い夜なんて!俺に堪えられるのか!?


ちくしょう…色々ありすぎて感覚が麻痺ってしまっていたぜ!俺としたことが…!


満足に眠れないというのは、自分たちで思っている以上に辛いのである。


「しょうがないにゃ〜」

「え?」

「一晩くらいなら、泊めてやっても良いよ?」

「泊めるって…ダンジョンに?」

「そっ。雨風も凌げるし、食べ物もあるよ。クエストを受けるにしたって今日休んでからの方が安心だろうし。夜に出るクエストはどれもレベル高いよ〜」

「ふぅむ…なるほど…」


ファトゥの言葉に思わず唸る。


流石に夜ともなれば色々とあるらしい、此処は素直に頷くべきか。


「あとちょっとだけならもふもふしても良いよ?」

「お願いします!!」


迷わず俺は平伏した。


「よろしい♪」


こうして俺たちは一旦街を抜け、少し歩いたところにあるというファトゥのダンジョンへ向かうのだった。


〜〜〜〜〜


「なぁ、あれ…勇者様だよな」

「あぁ。あの装備、間違いない」

「こんな時間からダンジョン攻略だなんて精が出るな…尊敬するよ」

「俺たちも頑張らねえとな!」

「おう!」


以上、尾揺たちの知ることはない衛兵たちの会話である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る