第11話 これが身分証ですね

「見えた!あれがクトスか」

「ん〜何だか故郷に帰ってきたような気分だにゃ」

「え?」

「だってファトゥが住んでるダンジョン、この近くだし」

「ヴェッ?」

「マリモ!」


……最後の冗談はさて置き。


魔物や魔獣避けと思われる塀に囲まれ、入り口を衛兵二人に守られた街が見えてきた辺りでファトゥに語りかける。


すると、とんでもない発言が飛び出した。


「ダンジョンって…君ら魔獣軍が呼び出した魔物が棲みついた遺跡だよな」

「良い質問ですね!」

「制御くらいしてください先生」

「痛い質問ですね…」

「泣かないでください先生!?」


喜色満面で黒い尾を揺らしていた先生は、少し生意気な生徒の発言で泣き出してしまう。


衛兵が門の前で何やらざわついている…流石にもう見えてるみたいだ。


それもあるがシンプルに申し訳なかったので、謝りながらポケットから取り出したハンカチで彼女の涙を拭く。


「優しい…惚れちゃいそう♪」

「いや俺と君は」


敵同士だろ。そう、反射的に言いかけて口を噤む。


何だか…今はそう明言したくなかった。


ファトゥがもふもふじゃなくても、此処まで話した間柄の人物を突き放すような真似はしたくないと思ったのだ。


なので、敢えて彼女の発言に乗るべく笑いながらこう言い直す。


「俺と君は、運命の赤い糸で結ばれているのかもな」

「……キザっぽいにゃね〜」

「んなぁ!?」

「にゃっはっは♪ファトゥは嫌いじゃないよ」


確かに少し格好つけすぎたかもしれないが、引かなくてもいいじゃないか!


少なからず傷付いたもののどうやらわざとらしい。もふもふの女の子に引かれるなんて、トラウマ級だ…心臓に悪いぞ、ファトゥ。


「……あれ?」

「ん?どうしたの?」

「なぁファトゥ」

「ファトゥだにゃん♪」

「そんなキャラだったか!?」


突然きゃるんっとポーズを取りながら返事するものだから、目を丸くして驚いてしまった。


「んで、どうしたのかな」

「あ、あぁ。ファトゥ…君、魔王城への道って分かる?」

「なぁんだそんなこと」


ファトゥはむふ〜と肩透かしとばかりに鼻息を溢すと、自信満々に告げた。


「幹部になる時、一度だけ行ったことがあるにゃ!」


物凄く不安になる一言と共に。


「ファトゥは記憶力は良い方だから信じて!」

「…因みにどれくらい?」

「さっきはファトゥがチョキを出して勝ったよね」

「改竄されてるねぇ!」


本当に大丈夫なんだろうか…猜疑心に駆られる心を止められぬまま、衛兵の前と立った。


「お前たち、一体この街に…ん?その鎧と剣…もしや、貴方が勇者様?」

「そうだけど…俺まだ旅立ったばかりで、大したことは何もしてないから名も知れてないはずなんだけど」

「その鎧は勇者様が身に付けるものだといつも国王様が豪語してらっしゃるので、きっと皆すぐに分かりますよ!」

「俺たちの魚…取り返してください!或いは魔獣軍の奴らにギャフンと言わせてください!」


報復が可愛らしいな…こっちの人間は性善説なのか?と思いつつ、此処はひとまず頷きを返す。


「おや?其方の者は…」

「彼女は」


流石にそのまま言うのはまずいな…。


パチリと布の下で輝く紫水師の目と視線が合い、無言で見つめ返されたので恐らく任せるということだろう。


よし、任せなさい!


「付き人のトーファです。訳あって酷い火傷を負っていまして…あまり顔は見ないであげてください」

「なるほど、勇者様がそう仰るのであれば。我ら国民一同、貴方様の冒険を応援しております!」

「それに応えられるよう頑張るよ」


敬礼に対して返礼を返し、俺とファトゥはクトスの街へと入ることに成功した。


「ふふっ…ちょっと安直じゃない?名前を逆さまにするなんて」

「良いだろう、別に。ネーミングセンスは自信無いんだ」


ニヤニヤとするファトゥに思わず顔が熱くなるのを感じながら、照れ隠しにつっけんどんに返してしまう俺だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る