第10話 たまには隠すことも大切だ
「さて…それじゃあ案内してもらおうか」
「無料じゃないよ」
「……?」
「わぁ、勇者って本当にその…無垢!そう、無垢なんだね!」
「急にどうしたんだ?」
ニヒッと楽しそうに笑うものの、俺にはファトゥが何を言っているか分からなかった。
何だか気遣われるような感じがして釈然としないが、まぁ良い。
「じゃあ改めて。約束通り、魔王のところへ案内してもらおうか」
「くっ、モフれ!」
「もしかしてモフるのって命を奪われるようなものなの!?」
参った。隙あらばモフろうかと思っていたのに、これではそういうわけにもいかない。
「冗談にゃ。でも、此処から結構遠いけど…大丈夫?」
「流石に目の前とかにあったら逆に心配だったから、寧ろ安心してる。大丈夫、さぁ前に進もう」
「太陽をいつも胸に持ってそうだなぁ…うん、じゃあ出発しよ〜!」
「お〜!」
こうして、俺とファトゥ。勇者と魔獣軍幹部という凸凹パーティは魔王に会うため、新たな一歩を踏み出すのであった。
後ろ手に腕を組みながら、ピコピコと耳や黒い尻尾を揺らす彼女。
可愛い。これで一応は敵の立場でモフってはいけないだとぉ!?
……というか、ちょっと待ってくれ。
「ファトゥ。まさか、そのまま行くつもりか?」
「えっ…うん。そうだけど」
「いやいや!君は一応魔獣軍なんだから、そのまま入ったらお尋ね者だろ」
「あ、忘れてた。てへっ⭐︎」
コテンと小首を傾げ軽く拳を頭にぶつけながら、ウィンクされた。
「ファトゥ…それ、俺の世界では絶滅危惧種なポーズなんだが」
「そうなの!?勇者の世界は可愛げが足りないね〜」
紫水晶の瞳を細めてうへ〜っとするファトゥ。その言葉に、思わず微苦笑を返すしかない。
確かに…良いところばかりではないからだ。
可愛げがないことだっていっぱいある。だが、それだけではない。
物事には二面性が付き物だからな。
「じゃなくて!」
「にゃっ!?」
「とりあえず、この布を被って俺に付いてきてくれ。次の街のことは知らないが…まぁ、なんとかする」
腰のポーチから、体をすっぽりと隠せそうな布を取り出す。これを出発前に渡してくれた従者の人が言うには、これは所謂
裁縫職人が魔法を使うことによって、折りたたむと本来のサイズよりかなり小さくなるまで折りたたむことができる。
この魔法は裁縫職人でなければ覚えることはできないらしい…便利だから、教われるなら教わりたかったよ。
それをばさっとファトゥに被せ、顔以外の露出を極力隠すとくすぐったそうに彼女は笑ってこう言った。
「勇者の、匂いがする」
「!」
その微笑みに思わず…。
「いやそれまともに使ったのも今が初めてだし、なんなら使ったこともないが」
「んもう!揶揄い甲斐がないな〜」
ブンブンと手を横に振ってツッコミを入れてしまうのだった。
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