第9話 策士、策に溺れる

「「ポン!」」


俺とファトゥは雌雄を決すべく、拳を突き出した!


お互いの出した手は…。


「フッ、流石は勇者。只者じゃないね」

「そういうファトゥこそ…幹部の名は伊達ではないな」


どちらも、グチョパだった。


まさか俺のこの手に対抗してくる相手がいるとは…これが異世界、そして恐るべし魔獣軍!


あとそのゆらゆらしてる尻尾が凄く可愛いので、是非とももふらせて欲しいなぁ。


ある日の異世界、昼下がり。


勇者として旅立った俺は変なヒャッハーと出会った後、いきなり幹部のファトゥと出会い。


じゃんけんをしている。


う〜ん。我ながらこんな物語を語り継がれたら、勇者と書いてバカと読まれてしまわないか心配だ。


しかし、そんな風に笑って読める時代が来ると思えば安いもの。


「ファトゥ。普通はこのままならあいこ、だよな?」

「勿論」

「じゃあちょっと、趣向を変えよう」

「へぇ…どんな風に?」


紫水晶の瞳を細め、面白そうだとばかりにニヤリと牙を小さく見せるファトゥ。


そんな彼女を真似るように得意げに笑いながら、俺は自分の次の手を宣言した。


「次の手で、俺はパーを出す!」

「にゃんと!?そう来たか…!」


ピン!と耳と尻尾を伸ばし驚くと、やるじゃないと一歩後ずさる。


ふふふ…魔法が使えずとも、レベルが1だろうと勝つ方法は幾らでもあるのだ。


その一つがこれ、心理戦である。


「これは…最早ただのじゃんけんじゃないぞ」

「分かってる。このじゃんけん…」

「「お互いの良心をかけた戦いだ!」」


そう!このジャンケン、既に三つの勝負が発生しているのだ。


一つ目は言わずもがな、相手がどの手を出すか。


グチョパは初手であいこになった以上、どちらも使えば勝負がつかなくなるのでお互い使えない。


次に二つ目、俺が本当にその手を出すかどうか。


この手を出すと信じるか信じないかそれはファトゥ自身に掛かっている。裏を読むか否かが迫られている訳だ。


そして三つ目。自分も宣言するか否か。俺だけ宣言させて、自分は言わずにいられるかどうか。


宣言すれば二つ目の勝負になるが…わざわざその駆け引きに乗るかどうかの良心をファトゥは迫られている。


「まさか勇者…ここまでとは!」

「ふふふ、この世界でのレベルは1でも向こうじゃ20だからな!」


まぁ年齢の話だし、現在進行形でバキバキのDT勇者の称号を持っているけど。


「にゃにぃ!?そこそこだね、そのまま来てたら怪しかったかな」

「さぁ、ファトゥはどうする!」

「ふふふ…乗ってあげるよ。ファトゥはグーを出す!」

「ほほう、負けるということか」


ファトゥは俺と同じ土俵に上がってきた。


ふっ、真っ直ぐな奴…嫌いじゃないわ!


再度身構え俺たちはそよ風の吹く道の上で睨み合う。


やがて、ひとひらの葉っぱが、地面に落ちた。


「あい!」

「こで!」

「「ポン!」」


出した手は…俺がチョキで、ファトゥはパー。


「ウィィィィ!!」

「にゃぁぁぁ!!」


俺は勝利の雄叫びと共に高らかに拳を突き出し、ファトゥは膝からその場に崩れ落ちた。


思い切りはしゃいでしまいたいが、あまりやりすぎて伝説の煽りシャゲダンと判断されてはたまらない。


拳を下ろして膝立ちになり、項垂れるファトゥの肩をポンと撫でた。


「ファトゥ…俺は君が手を変え、チョキを出すだろうとグーにすると読んだ。でも、そこを俺が逆手にとって手を変えた…これが本当の猫騙し!」

「うぅぅ〜!座布団持ってけ〜!」

「魚を取り返しにきたから魚が良いが」

「生臭いよ?」

「だよなぁ」


ははは!と俺たちは晴れ渡る青空のように大声で笑い飛ばす。


この裏の読み合い…勝者はより意地悪い方だという事実から、目を逸らすように。

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