第5話 何処かで見た顔だな

「行〜こう〜ハートに〜!」


カシャカシャと鎧がぶつかる音を時折立てながら、陽気な天気に負けないくらい明るく歩く。


徒歩。そう、徒歩なのだ。


俺とてこんな寂しい行軍をしたい訳ではない。けれど、仕方ないのだ。


俺は乗馬の経験も無いし、御者台に座った事もないのだから。


下手に運転しようとしたら、大怪我で俺は数ヶ月寝たままのパーティメンバーと一緒に寝たきり生活をしかねない。


「しかし…どうしてこうなったかなぁ…」


ぼんやりと空を見上げて独り言を呟く。


本来なら今頃大学で眠りこけながら、何とか単位を取ろうと四苦八苦していたはずなのに。


今では勇者として大好きな獣耳の女の子たちと戦う羽目になるなんて、流石に予想できたことじゃないだろう。


しかも戦う理由が魚の取り合いって…いや健康では魚由来のものも大切かもしれないけれどさ。


「ま、命の奪い合いに発展しているわけではないみたいだし。それはラッキーだったな」


何で俺が勇者として召喚され、こうして冒険の旅に出ているのかは分からないけれど。


人間側も魔獣軍側も人的被害が出ていないのであれば、交渉の余地はある。


俺がそういう女の子を好きってだけじゃなくて、やっぱりあの気の良いオッサ…王様や良くしてくれた衛兵の人たちみたいに優しい人が犠牲になるのは見たくないからね。


「そうだよ!和平を結べばいいじゃないか!」


魔獣軍は魚が欲しい。人間はそれをやめてほしい。


なら、妥協するんだ。


例えばそうだな…一定量魚を分けてあげるから、労働員を貸してほしいとか。


単純に人手が増えるだけでも土地の開拓や事業拡大も容易だし、向こうからしても魚を安定して貰えるなら願ったり叶ったりのはず。


「兎にも角にも、まずは魔王と会って話さなくっちゃな」


俺一人で先走ったところで取らぬ狸の皮算用だ。相手は猫だけど。


「おっとあんちゃん!」

「ん?」


ある程度進んだ先で右と左の分かれ道に差し掛かる。


その真ん中にある看板の前で、謎の男が仁王立ちして立っていた。


「右の道へ行くのかい?だったら俺を連れて行きな!」

「誰だてめえ!」

「俺の名はジャァック!この世の覇権を握らんとする魔王に対抗するべく、もう一人の魔王となれる存在を探している」

「いや無駄に話が壮大だな!?というか魔王は一人だろ!?あと一応勇者なんだけど俺!」


この男は勇者に向かって何という話をするんだ。どちらかと言えば、寧ろこいつが誰よりも魔王だろ…。


何かモヒカンだし、何処となく世紀末風だし。


「気にするな!誇張表現というやつだ」

「それはドゥンドゥンやらないでもらいたいところだな…」


某ジュラルな星人でもあまりやらないぞそんなこと。


「まぁいい。それで、本題は?」

「おう。あんちゃん、勇者ってことは魔王をギャフンと言わせに行くんだろ?」

「こっちでもそんな言い方するんだな…あぁそうだ。あんたが手伝ってくれるのか」

「いや俺は所謂村人Aだから、戦闘力はからっきしだ」

「戦えねぇのかよ!?」


人間側も個性的という意味では魔獣軍に負けてないな…と思った。

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