第4話 目力ってそういうこと?

「ふ〜む…ま、その方が面白いニャ」

「えっ?」


時を戻して現在。二又の魔王様ミィの一言で、俺は物思いから我に返った。


ミィは琥珀色の瞳を細め楽しげに笑うと、マントを翻してその場を後にしようと背を向ける。


ゆらゆらと気ままに揺れ動く二又の尻尾に目を奪われ、すぐにハッと気付き慌てて手を伸ばした。


「ま、待ってくれ!」

「んニャ?」


彼女と俺の間で所在なさげに伸ばした手と振り向いたその眼差しの間で、俺は視線を彷徨わせる。


咄嗟に声を掛けたものの、何を話せば良いのだろう。何も考えていなかった。


「……」


口を開閉させて何かを言いかけては止める。


そんな俺を、魔王様は何処か不敵な笑みを浮かべたまま真っ直ぐに見つめて待っている。


もっと彼女と話したい、そのもふもふに触らせてほしい。けれど俺は勇者で彼女は魔王で、一応でも敵対している相手だ。


正直なところ、もう一度あの冷ややかな目線を向けられたらごめんなさいと両手を合わせながら這いつくばってしまう。


あぁ…大学だったら、知らない女子生徒に話しかけようと話しかけられようと穏やかに会話出来るのに。


本当に気になる相手にはこんなにも口下手になるんだな、俺って。


「ニャ〜」

「!」


彼女が一鳴きすると、どうしてか心が騒ぎだす。


一目惚れ?それとも…。


「その、俺は獣梳けものすき 尾揺おゆれ。君は…魔王のミィ、で良いんだよな?」

「むふふ。そういう自己紹介はもっと相応しい場所があるニャよ。でも、その通り。ミィは魔獣軍の王!また会えるのを、心待ちにしてるね〜♪」

「あっ待て話は!魚を返せ〜!!」


ニャ〜ン!と可愛らしい猫の鳴き声を一言残し、影すら残さずその場からミィは消え失せた。


彼女の二又の尻尾の色は…茶色と黒だった。


〜〜〜〜〜


「う、んん…あれ、ここは」

「起きたか勇者よ!」

「わぁ近っ!?ってオッサ…流石に3回目はやめておくよ、王様」

「ハハッ⭐︎天丼は2回目までと言うからな」


やがて目が覚めると超絶可愛いもふもふの美少女ではなく、超絶胡散臭い王様が視界いっぱいに広がっていた。近くない?


顔を戻した王様に引っ張られるようにして体を起こし周りを見渡せば、そこは王城の何処かのようである。


「俺たち、確か国を出て…すぐに眠らされたんだ」

「やはりか。見ろ」

「ん?な、リモー!トプス!ウイ!」


ベッドが幾つも並んでいるから、恐らくは医務室。


その医務室と思しき場所で旅を共にするはずだった三人は、顔を真っ青にして眠り続けたままだった。


リモーやトプスも心配だが、幼いウイまでもそうなっているのは見ていて心苦しい。


「これは、魔王の使う催眠術だろう…この眠りから目覚めるには、魔王自身が解くしかない」

「そんな…」

「くっ!魚由来のカルシウムさえあれば儂が治療したというのに!」

「魚成分強すぎだろ!」


もしかして本当に国の一大事なのか?と思いつつ、流石に出会って間もないといえど仲間たちがこんなにされては黙ってるわけにもいかないな。


「王様!俺、魔王から絶対魚を取り戻すよ!だから無事に戻ったら…」

「うむ、必ず此奴らを目覚めさせてやる!」

「皆…待っててくれ!」


「うぅ…魚、魚、魚…」

「魚を食べると…」

「頭、頭、頭…」


何か苦しそうに三人が立て続けに寝言を呟く。


くっ!ミィ…絶対ごめんなさいって言わせてやるからニャ!…言わせてやるからな!


俺は、今度こそ決意を固め鎧と剣を纏い医務室を飛び出した。


「あ、その前に」

「まだ何かあるのか?」


うんうんと何処か嬉しそうに頷いていた王様が、キョトンと目を丸くする。


気になることが一つあったんだ、それを聞かないと夜しか眠れない!


「あぁ。俺たち、どうやって王城まで戻ってきたんだ?」

「おぉそのことか。それなら、門の前に居た衛士たちがお主らが突然倒れたのを見ていたのだ」

「確かにまだそんなに離れてなかったと思うけど、よく見えたな…」

「衛士二名とも視力は5.0じゃ」

「化け物じゃねぇか!!裏切り者だろそれ!」


また嘘をつかれたんじゃないだろうな…そう訝しみ後ろ髪を引かれる思い出はあったけど。


このままこうしてても埒が開かないので、とりあえず魔王ミィに会ってもふもふさせてもらうため俺は再び王国の門をくぐった。


ついでに、仲間を目覚めさせてもらうために!あと魚を取り戻すために!

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