第3話 あ、結構緩いんだ…

「まずはこの世界『イ•セカーイ』についてじゃ」

「そんな直球な名前なのか!?」

「冗談だ」

「おいオッサン!!」

「オッサンじゃない!」


懐がバチカン市国ばりに広い俺でも、流石に突っ込まざるを得なかった。


ボケにはツッコむ。俺の世界における常識だ、こっちでもそうだと良いんだけど。


「まぁしかし、此方の世界そのものに名前はない。お主が居た世界にも名前などなかろう?」

「確かに」


俺も此処に呼ばれるまで異世界なんて空想上だと思っていたし、世界が幾つもあるなんて誰も思わない。


名前なんて付いてるはずが無いのだ。絵物語じゃないのだから。


「この国は『ストラット』、比較的海も近く色んな商業が盛んだ」

「へぇ…逼迫しているとかじゃないんだな」

「寧ろ魔獣軍の方が数は少ないと報告されている」

「何で俺呼ばれた!?」


指揮棒を用いて国の形やら主要商業などが説明される中、突然のカミングアウトである。


この時初めて魔獣軍について説明されるがあまりにさらりと言うものだから俺の意識は全く違うところへ向けられた。


「うむ。では話そう…彼奴らは、とても残酷なのじゃ」

「!」


俺の指摘に深く頷いた王様。そして重々しく開かれた口から、思いもよらぬ事実を告げられる。


「彼奴ら、何と無辜の民を…」

「……」


まさか、容赦なく…?魔獣軍、そんなに恐ろしいのか。


そんな過酷な世界であることに俺が不安がらないよう、努めて明るくしてくれていたのだろう。


なのに気付かず俺はオッサンなんて…!


「無辜の民が楽しみにしている魚を、片っ端から奪い去っていくのだ!」

「……何だって?」


難聴系主人公という訳では無い俺だが。流石にこれに関しては、聞き返さずにはいられなかった。


魚を奪われた…と言ったんだよな、この王様。


いや、でも食料に関しては人間でなくても死活問題だ。一大事と言えば一大事だろう。


もしこの国が漁業が盛んで、それによって利益を立てているのだとしたら国家崩壊の危機だ。


やや大袈裟な気もするが、勇者を呼んでもおかしくは…。


「我々の大好物である魚を、根こそぎ奪っていくなどこの上ない悪行だ!どうか勇者よ、奴らにその報いを受けさせてやってほしい!」

「断る!」

「そうか…しかし、我々の大好物である魚を」

「あっこれ良いって言うまで話進まない奴か!?小癪な真似を!」


悲報。呼ばれた理由と敵対する理由が、思いの外拍子抜けだった。


とはいえ、こうして呼ばれたのも何かの縁だし一応はやってあげようじゃないか。


間接的に命に関わる悪行なのは事実だし、大義名分もある。


「安心せい。我が国が誇る伝説の武具『聖なる鎧バリアミラー』と『聖なる剣ゴフウ』を授ける、奴らの魔法にも対抗できる」

「伝説って?」

「あぁ!間も無く謁見の間に案内し、お主のパーティメンバーと共に武具を与えるから暫し休息すると良い」

「そう言えば魔法って」

「あぁ!」

「それ万能の言葉じゃないぞ!?」


……とまぁ、こんな緩い王様から緩い説明を受け俺は旅立つことになったのだった。


あのまま色濃いパーティの皆にもっと詳しい話を聞くつもりだったんだが…俺以外の皆は眠りこけてる最中なのである。

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