第2話 俺、文字が読めるゥ!

「くおおお!」


何てことだ!魔獣軍、そして…魔王ミィと俺は敵対する運命だったなんて。


そんな、ただでさえで彼女に俺は挑まなければいけないのに…!


「うんうん、分かるニャ。あいつらはムキになりすぎだと思うの」

「何で俺の考えてることが!?」

「知らなかったニャ?魔王からは逃げられない…!」

「それってそういう意味じゃないと思うが!」


ゆらゆらと左右別々に動く尻尾に目を奪われながらも辛うじてツッコむ。


「お前面白いニャ!どう?世界の半分…」

「な、何!?世界の半分だと!定番だが、俺はそんなもので靡くほど安くは」

「の、魚をやろう!」

「保存方法を考えなくちゃ…」


この国一人当たり十匹くらい鰹節にすれば行けるか?


「ってそうじゃない。魚は好きだけど、生憎捌く技術は持ち合わせてなくてね!丁重にお断りさせてもらおう」

「男は黙って?」

「三枚おろし!って何でだ!?」

「ニャあ…まるっといただく!くらい言質を取れるかと思ったけど、手強いね」

「勇者ですから」


もしこの二又の尻尾を好きにして良い、と言われたら怪しかったね。もふもふの前には人類の食事情に関しては目を瞑るしかないのだ。


そう、食事情。


それこそ俺が勇者として解決すべき問題であり、気が乗らない理由の最後の一つである。


はぁ…と内心で深々溜め息を吐いてしまいながら、折角なので改めて此方に来てからのことを思い返すことにした。


〜〜〜〜〜


「ってぇ…あれ?此処何処?」

「おぉ勇者よ!」

「神剣パラディオン!?」


ちょっと時を戻して、今朝。


とある事情から人生の瀬戸際にいたはずの俺は突然景色が切り替わったことに理解が追いつかず、尻餅をついたまま混乱しているといきなり声を掛けられた。


振り返ればそこにはトランプのKに描かれていそうな髭と髪のした、正に王様と呼びたくなる貫禄の男性が。


「オッサン!!」

「オッサンじゃない!お前の装備を…と、まだ何も説明しておらんかったな」


反射的にオッサンと呼んでしまったが、気前良く反応してくれたのでお咎めは無いようである。


そしてたまによくある、特に事情を説明せず送り出す王様かと思ったがそうではなかった。


きちんと思い出したようで本棚に囲まれた、見るからに召喚の間と名付けられていそうな部屋を出て隣へと移る。


何とそこには…!


「……ホワイトボード?」

「うむ。過去に勇者召喚が行われた際、伝えられたと言われておる…これを見てくれぬか」


カチカチとチョーク置きから取り出した指揮棒を伸ばし、パン!と小気味良くボードを小突く。


言われるままにそこに書かれている内容を読み解こうとするけれど…何が書いてあるかさっぱりわからない。


形容するならば、ミミズが走ったような字だ。


「あの、俺まだ異世界の言葉は」


そこまで言いかけた瞬間。文字はみるみるうちに形を変え…何と、俺も愛用するリント語もとい日本語になったではないか!


「読める、俺にも文字が読めるぞ!?」

「よしよし。勇者は召喚された際此方の文字が自動的に読めるよう、魔法で補助されているのは確かなようだ」


魔法だとか気になる言葉が出てきたが、それもボードに書かれているな。


どれどれ…?顎をさする真似をしながら、俺は王様の説明のもとノートを取る学生気分でこの世界のことについて学び始めるのだった。

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