召喚された獣耳好きの俺は、獣耳と敵対する運命でした!?

燈乃つん@🍮

第1話 いざ行け勇者よ?行きたくないなぁ…

突然だが、俺は獣耳の女の子が好きだ。


この世の何よりも恋焦がれている!無論、しっかり尻尾も持っている女の子だ。


個人的な話だが、獣耳だけで尻尾が無いのはどうにも物足りない。


それとはまた別の話にはなるけど俺は去年まで猫を飼っていた。名前はティニー、柄は三毛のメス猫だ。


年は15歳で、猫としては良いお年。でも食欲も毛艶もしっかりしていて遊びに来る友人からは口々に「そうは見えない」って言われたよ。


初めての大学生活にも慣れてきて、ティニーとの生活も楽しかった…そんなある日のこと。




ティニーは、我が家から姿を消した。




〜〜〜〜〜


そして今。俺は何をしているかというと…。


「勇者よ!この者らと共にパーティを組み、魔王を懲らしめて来るのだ!」

「ははぁ…!」


異世界に召喚され、召喚した王様の命により魔王をギャフンと言わせるための旅に出ようとしていた。


何故俺が召喚され、魔王を懲らしめる旅に出ることになったのか。


それには語るも涙聞くも涙の物語が…!


あったりなかったり。


まぁそんなこんなで俺は謁見の間を後にし、そのまま国の外へと馬車に乗って旅立つ訳だけど。


「勇者様!タンクは任せてくれ、こう見えて力仕事は誰にも負けねぇ!」

「サンキュ、リモー。頼りにしてる」


こう見えて、と言いながら目に見えて筋骨隆々。荒木先生もビックリのガタイの良いパーフェクトボディの盾役の男、リモー。


「勇者様、私の魔法があれば怪我だろうと呪いだろうと一瞬にして治してみせます!」

「トプスが居てくれたら心強いよ」


ヒールやバフにかけては天下一品。その効力やバフをかけられた瞬間、杖を突いて歩く老人がビームを撃てそうなほど健康的な体になったという僧侶役の青年、トプス。


「勇者様〜。魔王様って悪いやつ〜?」

「そうだねぇ、めっ!てしないといけないかな〜」


生まれながらにして魔力に溢れており、攻撃魔法は山一つ穿てるらしいロリっ子魔法使い役、ウイ。


そんな最早この三人だけで簡単に魔王をやっつけられるんじゃないかという面々に囲まれているので、絶対俺の出番はないと思っている。


あと、俺にあるのはこの聖なる鎧バリアミラーと聖なる剣ゴフウだけでチートスキルも意外な才能も何もないし。


しかしそれ以上に最もやる気が出ない理由がある。


何で、何で俺が…!


はぁ、重いなあ…あと馬車が揺れる度にガチャガチャと擦れる音がして落ち着かない。


「俺…やれるのかな…」


他の三人が御者台とその手前の荷台でわいわいと話す中、ポソリと漏らした不安。


誰にも決して届くことのないその独白は…聞き届けられた。


『ほ〜う?勇者というのは、随分大人しいのニャぁ』

「!」


『この場には居ない、誰かの耳に。』


脳内に響くように聞こえた声の主は何処に…なんて確認する暇もなく。


俺たち勇者パーティは、全員パタリと糸の切れた人形のように倒れるのだった。


〜〜〜〜〜


「……きろ、起きるニャ」

「う〜ん…ティニー…」

「……早く起きるニャぁ!!」

「ひゃい!?」


誰かが耳元で大声を上げながら、ゆっさゆっさと体を揺さぶる。


それが何だか猫の鳴き声にも聞こえてついティニーと呼んでしまうと、ゴアッと眠気を吹き飛ばすほどの声が響き慌てて飛び起きた。


「あれ?此処…何処だ」


確か俺は馬車の荷台で突然強烈な眠気に襲われたはず。なのに、馬車はおろか草木一本生えていない真っ黒な空間の中に居た。


それを輝く星々や青々と燃えるかのように眩い月が照らしている。


「やっと起きたニャ!沖田総司でももっと早く起きるよ?」

「新撰組で突っ込まれるのも新鮮だな」

「は?」

「ごめんなさい」


何故か此処にいたプリプリと頬を膨らませながら猫の耳と尻尾を揺らす謎の女の子に、いきなり殺されそうな視線を向けられ反射的に土下座した。


俺の人生史上初めてかつ最速の土下座である。


「全く…こんな奴が勇者だニャンて、人間たちは大丈夫ぅ?」

「どうして俺が勇者だって…いや、あんな格好してたら丸分かりか」


自分のごったましい格好を見て納得する。


こんな物々しい装備をしている人間なんて、勇者か相当仕事をするタンクくらいのものらしいからな…。


「違うニャ。ミィはずっとお前を見ていたのさ!」

「俺を?じゃあ、君は一体…」

「フッフッフ!よくぞ聞いてくれたニャ!何を隠そう、ミィは!」


バッと立ち上がって仰々しくマントを翻したミィ---ルー大柴とかじゃないから多分名前だよな---は、びしっ!と格好良く俺の顔を指差しながらその耳と尻尾をピンと伸ばしてこう宣言するのだった。


「勇者であるお前がギャフンと言わせるべき相手、魔王軍もとい魔獣軍の王…つまり魔王ニャ!ミィとお前は宿敵なのだ〜!」

「……マ、マジかよぉぉぉぉぉ!?」


俺がどうしても気乗りしないことの最もたる理由。それは……!


俺が倒すべき相手が、こよなく愛する獣耳と尻尾を持つ女の子たちだったからである!!


そんなのって、アリかよぉ!?

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