004

 世界樹の根本に辿り着いたとき、先着していたのは都合二人。一行の代表、また矛となるグランツ。そして、

「やあ、久しぶりだね」

 飄々として世界樹を背に腰掛ける女性。黒色の短髪に茶色の双眸。ボーイッシュな服装に身を包んだ彼女の名は

「お久しぶりです、アスカさん」

 アスカ。

 

 二一年前、十四歳だった彼女は、世界を捨てる選択をした。彼女がどれほどの覚悟と誠実さで岐路に立ったのかは伏せておくが、その結果が、まさにそういうことで。つまりは、というわけだ。

 彼女はあちらの王族と面識があり、なおかつ貸しがある。故に、交渉役としてはうってつけの人材であった。いかに彼女が非力な人類種だったとしても、踏み倒されることはないはずだ。

 朝靄の中に、最後の一人が姿を現す。

「すみません、お待たせしました」

 走ってきたのか、息も絶え絶えの少女。清潔な純白のブラウスに薄い水色のフレアスカートを身につけた彼女は、青空の下であればさぞ輝かしく映ったろう。しかし、絶望的にそのを想定されてはいなかった。

「……あのさ、シャル。その服――」

「あ、ごめんなさい、私みたいな半獣ハーフには似合いませんよね。そうですよね……」

「いや違うそうじゃなくて、その、似合ってるし、可愛いと思うけど、転んだら心配だなとか」

 今にも滂沱してしまいそうな悲哀の表情を浮かべる彼女に、フェルディは慌ててフォローを入れる。

「青春だねー」

「いつもこんな感じですから、アスカさんには毒ですよ」

「それは喧嘩を売っているのかなグランツくん。絶対勝てないけど受けて立とう」

「私ももう叔母さんになっちゃうのかー」

「もう少し緊張感ってものはないんですかね⁉」

 口々に冷やかされ、業を煮やしたフェルディが一喝。

「あの、今すぐ着替えてきますっ」

「あ、ちが、シャル待って!」

 転びかねない危うさで駆け出したシャルロッテとそれを追うフェルディを見て、三人はまたニヤニヤとした笑みを浮かべていた。

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