秋晴れ

渋川伊香保

秋晴れ

背の高い薄の野原を和真は歩いていた。時々振り返り

「本当にこっちか?まだ行くのか?」

と尋ねる。

後には狐がいた。

狐は話さず、頷いたり首を振ったりして意思を伝えているようだった。

「まったくどうしてこんなことに……」

などと呟きながら和真は行く。

薄を掻き分け掻き分け歩いているうちに、地面の感覚が変わってきたように思えた。これまでのフワフワした感触から、石が敷き詰められたような硬い感触。ゴツゴツしていて安定も悪い。

気付くと石畳の街に着いた。気がつくと薄もない。

「あれ?」

と和真が驚いていると、後から勢いよく狐が駆け出した。

その先には、大きな狐がいた。

大狐は和真に

「ありがとう。お陰で息子は無事に戻ったた。礼をしよう。」

と声をかけた。低い、くぐもった声だった。

「いや、礼なんて。仕事だから、報酬を」

と和真が応える。

ふむ、と大狐は少し考えた様子で、やがて一包みのなにかを渡してきた。

「報酬ということなら、これの方がいいかな。帰って渡してほしい」


気がつくと、和真は薄の野原にいた。さっきまで狐を連れて掻き分けていた薄原だった。

空を見ると雲一つない秋晴れ。

あれは幽玄というやつだろう。深入りされたくなかったのだな。

和真は納得していた。

これから一ノ瀬よろず相談所へ帰らなくてはならない。所長の一ノ瀬にこの包を渡さなくては。

「まったく、よろず、なんて名付けるから、ああいうわけわかんない奴が相談しに来るんだよ」

やがて薄原をあとにして、和真は町へ帰っていった。

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秋晴れ 渋川伊香保 @tanzakukaita

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