第19話 脱出?
「え?」
開いた扉の先は、真っ暗闇の神社だった。石畳に赤い鳥居。先ほどまでの異界よりは手入れをされている印象を受ける。石畳のそばには、電灯がぽつりぽつりと二つほど立っている。
鳥居の先には、たくさんの明かりが遠くに見える。まるで、街の明かりのようだ。
気になって、一歩踏み出した。途端、空気感が変わる。不気味で気持ちが据わらない感覚から一転、木々の間を通り抜けた風が冷たく頬を撫でた。空の色は紫ではなく、黒。そして、空から視線を下ろせば、街明かりらしい整列した白い光たちが輝いていた。
「戻ってこれた、の?」
あまり時間は経っていないはずなのに、懐かしい世界に泣きそうになった。自分の立っていた拝殿を脱して、木造の階段を思いっきり駆け下りた。石畳に着地すると同時に、私のローファーが音を立てる。その音で、自分の気持ちが
頬に熱が集まる。それでも、嬉しい。戻ってくることが出来た。自然、目から熱い涙がこぼれた。
「あ……、よかった。戻ってこれて、良かったぁ」
ボロボロと目から涙があふれる。涙は止まらない。高校生にもなって、こんな夜の神社で泣いているなんて、他の人が見たら心配するか狂人判定かのどちらかだ。早く泣き止もうと思っても、しゃくりあげる声すら出てきてしまった。
「ふっ、うう……」
空は暗い。早く家に帰らないと、両親はきっと心配する。最近は藤原くんとの修行で遅く帰っているとはいえ、夕飯の時間までには帰っていたのに、こんな時間まで外に居て、泣いて帰ってきたらどんな顔をさせてしまうだろうか。
涙を手で拭いて、鳥居の方へ向かう。さっきまで居た異界の鳥居とは全然違う。底知れぬ恐ろしさも、先の見えない恐れも何もない。そんな日常に心から安堵する。
涙は出っぱなしだから、下を向いて歩いていた。そんな中、耳に石畳を叩く足音が入ってきた。鳥居の向こう、石階段を上る音。さっきの怪異を思い出して、足を止めてしまった。顔は、涙を流しながらも石階段の方を向いて動かせない。
しばらくすると、走る時の弾む息が聞こえてきた。どこかで聞いたことのある声。ほどなくして、足音の主が現れた。黒い髪、青みがかった黒い目、背中には竹刀ケースを背負っている。私は、その姿の人物を知っている。
彼の水底のような瞳と目が合った。彼は、私を見ると破顔した。今まで、見たことのない顔。心底、安心したような顔。私は、呆然とその顔を見つめてしまった。そして、彼はそのまま私に声を掛けた。
「水城さん!」
それは、藤原くんだった。
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