第15話 異界
改めて周囲を見渡すと、そこはこの世の場所とは思えない雰囲気だった。
黄昏時より昏い紫の空。不気味に揺らめく木々。5mはありそうな、大きな鳥居。その鳥居の丹の朱はハゲかけていて、下から石が覗いている。さらに、鳥居の向こうは霧が深くてよく見えないが、下へ向かう坂道か階段になっているようだった。
先が見えない方は怪異の本拠地の可能性が高いから、近寄らないこと。それは二週間の修行のなかで、藤原くんから教わったことの一つだった。
階段の反対側の道、鳥居から見てこっち側には石畳が続いている。左右等間隔に置かれた石灯篭は私の腰の高さほどまである。石灯篭についてはあまり詳しくないが、多分小さくはないと思う。
その道が真っ直ぐに続いている。真っ直ぐに続いているはずなのに、先が見えないと感じる。
ミラーハウスのような視覚と感覚が混乱する気持ち悪い感覚。しかし、意識しないとそんなことは考えるに値しない日常だと感じてしまう自分もいる。これが、上級の怪異が持つ認識介入能力なのだろうか。
藤原くん曰く。上級怪異は人の認識に介入するらしい。日常の中の異常を異常と思わせない。そうして、その異常の中に入った人間を殺す。
その能力の最上として、異界というものがあるらしい。世界の認識にすら介入し、怪異自身に最適なルールを敷く。その異界は普通の人にとっては入れば出られない不可知の檻で、祓い屋ですら数人がかりで祓うことが普通らしい。
ふと、自分の認識を確認した。私は〝まるで〟この世のものではない景色のように思ったけれど。
もしかして──ここは本当に、私が生きてきた世界ではないのかもしれない。
そう思った途端、ひとりで宇宙に放り出されたような気分になった。
ひとり、一人、独り。
祓い屋すら、数人がかりで祓う怪異がいる場所に、ひとり。
「藤原くん……」
声を出しても届かない。
それは、なんて──絶望。知らず、私は腕を掻き抱いた。
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