第12話 まぼろし
「あれ、藤原じゃん。今日は休みじゃなかったのか?」
突然、廊下から藤原くんの名前が聞こえてきて驚いてしまった。思わず、教室のドアの方を見てしまう。しかし、藤原くんの姿は見えなかった。
「燈子?」
「え、何?」
「急に振り向いてどうしたの。なんか気になることでもあった?」
「……いや、なんでもないよ」
「そう? なら、いいけど」
綾が心配そうに聞いてくる。私は綾を心配させないように頷いた。けれど昼休み中ずっと、気もそぞろなままだった。しかし、結局昼休みが終わっても藤原くんの姿はおろか、声すらも私の元には届かなかった。
気持ちが落ち着かないまま、放課後になった。結局、藤原くんは教室に登校してこなかった。あの廊下から聞こえてきた言葉は幻だったのだろうか。
教室に、一人。それは、怪異を倒す藤原くんとあった日のようだと思った。けれど時間はまだ早く、空の色は青い。グラウンドでは運動部が走り込みをしている。廊下はどこかの教室でおしゃべりをしている声が、うっすらと聞こえてくる。
「帰ろう」
今日はなんだか、センチメンタルな気分だ。学校に居ても気が沈む一方。ならば、家に帰って、それで──。
「今日は霊力修行の約束してない、な」
最近はずっと藤原くんと修行をしていたから、なんだか変な気分だ。まだ、たった二週間しか経っていないのに。こんなにも、落ち着かない。一応、スマホのメッセージを確認してみるが、藤原くんからは何も連絡は来ていなかった。
カバンを手に取り、教室を出る。今日の約束はないんだから、今日くらい藤原くんのことなんて忘れてしまえ。
昇降口で靴を履き替える。校門まではあっという間だった。記憶を消されかけたのもここだったなと、懐かしくなる。
そして私は、二週間ぶりに放課後の予定無しで家に帰ることにしたのだ。
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