第4話 忘却術

 そのまま、お昼休みになった。というか、気がついたら昼休みだった。昨日の私は白昼夢でも、見てたのだろうか?


「やーっとお昼休みだねぇ!ね、燈子、一緒に食べよ」


 私をお昼に誘ったのは友人の綾だった。いつも優しくて、明るい。ネガティブがちのわたしにとって、綾の明るさにはいつも救われていた。


「朝のアレについて、教えてもらっちゃうよ!……藤原くんとなにかあったの?」

「えっと……」


 そう言われても、困る。もしかしたら、私の夢かもしれないし……。でも、誰かに聴いてもらえば、少しは楽になるのかなとも思う。


「お昼を食べながら……」


 話すね。と言おうとして、綾の横に人が立ってることに気づいた。


「悪い。今日、水城さん俺と食べる約束だから」


 そんなことを綾にいうと、お弁当袋をもって立とうとしていた私の手を取って、藤原くんは歩き出した。


「えっ、え!」


 綾は驚いている。謝ろうと、声を張ろうとして


「後で詳しく教えてねー!」


 と、いかにも興味津々の顔をして、手を振っている綾。絶対、なんか勘違いしている気がする──!



 校舎の人気のないところまでやってきた。藤原くんは足を止めて、私の方を向いた。そして、


「なんで覚えているんだ」


 と、怒ったように聞いてきた。そんな事聞かれても。


「藤原くんが、納得してくれたんじゃないの?」


 私はそう思ってた。少なくとも、今朝までは。


「違う、俺は水城さんに忘却術を掛けた。君が覚えているのはおかしい」


 どうやら、藤原くんも覚えていたらしい。それは良かったと思う反面、今聞いた言葉に不穏なものを聞き取る。


「忘却術……?」

「そうだ。一般の人に怪異のことは知れ渡ってはならない。だから、目撃者には忘却術をかけて目撃したことを忘れさせる。それがこの世界を守るうえでの最善でルールなんだ」


 藤原君は苦虫を嚙み潰したような表情で答える。


「なのに君は覚えている。こんなこと、今までなかった。一度怪異を認識したものは忘れたりしない限り、認識しやすくなるんだ。つまり、」


 ひどく真剣な目をして、彼は言った。


「君は怪異に襲われやすくなるんだ。奴らは自分を認識できる人間を好むから」


 その言葉を聞いたとき、昨日の光景がよぎった。恐ろしい怪物。恐怖ゆえのの逃走。そして、それを祓った彼の姿。

 それらを思い出してふと思った。


「藤原くんは怪異を祓ったでしょ、アレって私にもできないかな?」


 その発想は口から漏れていた。少し焦った。あまりにも簡単そうに口にした自分の軽率さと、彼の重いであろう家業に対して真似をしたいなんて言ってしまった愚かさに。

 しかし、藤原くんはふと考える素振りをした後。


「忘却術を跳ね除けるくらいだし、可能かもしれない」


 そんな事を言ったあと、放課後に詳しく話すと約束して去っていてしまった。

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