第3話 記憶と言葉

 ふと、目が覚めた。空はとっくに夜の帳が落ちている。どうやら公園のベンチで寝てしまっていたらしい。手元には、学校のカバンと弁当袋。

 弁当袋を見て思い出す。


「そうだ、藤原くん──!」


 周囲をキョロキョロと見回す。けれど、藤原くんと思しき影は見つからなかった。そういえば、


「なんで私、覚えてるんだろ」


 藤原くんは私の記憶を消すと言った。なのに、私はこんなにもはっきりと覚えている。


「もしかして、分かってくれたのかな……」


 そうだったら嬉しい。藤原くんには心の底から感謝している。明日にでも、お礼をしないと。


「と、今何時?」


 スマホを取り出し、時計を見る。時刻は18:00過ぎを示していた。すこし、親に心配させてるかもしれない……。私は少し駆け足めに、帰路を歩き出した。



 朝の登校時間は、私にとって少しだけ憂鬱だ。低血圧気味なのか、ぼーっとして人にあたってしまうことが多々あるからだ。けれど、今日は別。少しだけ、ワクワクしながら教室へ向かう。


「おはようございます……」


 挨拶もそこそこに目当ての人物の席を探す。いつも通り、眠そうに机に突っ伏す藤原くんの姿があった。

 そろそろと、藤原くんの席のそばに近づく。そして、


「ふ、藤原くん、おはよう」


 声を掛けた。藤原くんは猫のような伸びをしたあと、こちらに顔を向けて


「うん、おはよう」


 と、挨拶を返してくれた。私は、あまり雑談が得意ではない。だから、すぐに本題を切り出すことにした。


「こ、これ、昨日のお礼。昨日は本当にありがとう!」


 カバンから出したのは、私なりのお礼。私の大好きなチョコレートのお菓子。


「えっと……」


 それを見て、藤原くんは目をギュッと閉じたあとに困惑したように言った。


「昨日、何かしたっけ?」


 その言葉は、私にとってはひどく悲しい調べに聞こえた。


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