第2話
少しの間気を失ったのか、ライトが付いたままのスマホに気が付いて拾うと1%バッテリーが減っていた。
「うえ、やべえやべえ。」
いくら昼夜逆転生活してるとはいえ、あんな幻覚見始めたら人として終わりだ。しかし、刀は手に持ったままだった。急いで返そうこんな物、そう思って前を見ると。
「祠は?」
この刀が置いてあった場所には何もなかった。気のせいだったのかと思いつつも、刀と鞘は確かにある。
「うわあ!」
気味が悪く投げ飛ばそうとすると、刀は手から離れない!張り付いている様子は無いが、手を開いても落ちない!
「なんだこれ!」
『貴様ふざけるな!いきなり投げ捨てようとするんじゃねえ!』
先と変わらずの声が頭に奔る!なんだこれ、本当に何が起こってんだ!
「お前、何なんだよ!」
『先ほど名乗っただろう!我は力戦一刀!最強の神片なり!』
何、なに?というかなんなんだ!
「意味わかんねえよ!何させるつもりだ!」
『武器なんて戦うための物だろう。戦以外無い。そろそろ黙れ、ほうら来たぞ。』
「何が!」
『マシラだ。』
感覚的なものなのだが刀が示す方向を見る。それは校庭の真ん中で月夜の今何故かよく見えた。何かがいる。
「なんだ?」
意味が解らないなりに校庭に向かって歩き出す。なぜか辺りは月明りだけの今でも鮮明に見えるようになっていた。
しかし、校庭の真ん中に居る物はよく解らない。というか、なんか変なのだ。見間違いでなければ三メートル以上ある、猿のような物なのだ。
「なんだ、アレ…?」
『ほれ、来るぞ。』
「キャアーーーー!」
いきなり甲高い叫び声がしたと同時にその大きな物はこちらに駆けてきた。そしてそれは大きなマントヒヒの様な姿で、大きさは全く見間違いではなかった!
「う、うわあああ!」
『おい、こいつごときで怯む馬鹿が居るか!』
バキ!
そのまま俺はでかい猿に殴られて吹き飛ぶ。三回転ぐらい転がって、起き上がる。
「い、いててて。」
『おい、まさかコイツに殺されるつもりか!いくら何でも情けない!』
横から飛ぶ無茶な叱責がかつての上司を思い出させる。一瞬の怒りとトラウマから、このとき都合良く力が戻った。
「うるせえ。」
「キャア、キャア!」
俺は刀に言ったつもりだったが同時に猿が叫ぶ。それは類人猿だからか、若干の表情が読み取れて馬鹿にしている事が分かった。
「うるせえよ!」
「キャアー!」
今度は怯まずに刀を前に向け、鞘を投げ捨て両手で握った。
俺は戦う経験も、鍛えた体も、武器の扱いすらまるでない。だが、過去の怒りは確かに残り、それが重なる目の前の猿は化け物である認識を吹き飛ばすほどの熱を作った!
「おらあ!」
こんな大きな刀なんて振った事無いし、振れないだろう。だがそれでも今、前に走り確かに猿を切れた!
「キイ!」
「よし!」
『なんだその太刀筋は!マシラに劣るわ!』
なんだよ、なに腰折ってくんだこの刀は!そう憤って刀を見ようとした瞬間に爪が下から迫るのを先に見た。
「ぎゃ!」
爪は直撃し、俺は星を見ながら吹き飛んだ。直前に見たあの爪の長さ、三十センチはなかったか。コレは。
「うわああ!」
俺は引き裂かれた胸と顎を想像し、左手で触って確かめる。すると、スウェットは切り裂かれていたが肌が少し深めに切れていただけだ。
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