第1話

「ああ、無職が板についてきちまった。」


 数年務めた会社を辞めて、失業保険を受け取りながら日々を過ごしていたが、それが終わっても再就職活動は一向に進まない。


 クソ企業のおかげで薄給ながら金を使う暇も無い日々にて蓄えはあるが、それだって一生まかなえる物じゃない。


「くそ、また眠れねえ。」


 その上、無職の不規則な生活は無駄な疲労感を呼ぶ。夜眠れない今、散歩に出る。なんというか誰も居ない外は俺を受け入れてくれているような気がするからだ。


「はあ、コンビニでも…。」


 そう歩き出していくと、曲がる角を一つ間違えて近所の学校の横に出た。地元から離れた俺は別にこの学校に通っていたわけでは無いが、誰もいない夜の今は無性のなつかしさと、若さ無き自身に無性なくやしさを感じる。


「ふう。」


 別に何をしたい訳でもないが、夜の寛容さから俺は学校に入った。都会では監視カメラでもありそうな物だが田舎のここには確実に無いだろう。


「あーあ。」


 そして俺は校庭の真ん中で大の字になって空を見る。肌寒さがある今、空はよく輝いていた。


「何やってんだろうな。」


 答え無き自問自答をする。いっそ、ここで自棄にでもなれば。いや、それでも一瞬警察沙汰になって、ひとしきり世間から叩かれた後忘れ去られるだけだろう。


『こっちに来い。』


「あん?」


 なぜか、頭の中から声がする。一瞬狂ったかと思ったが、今はいっそ、それでも良かった。


『こっちに来い。』


 二度目が来た。冷静な大人だったら恐らく気のせいを貫くだろう。しかし今の俺は歳はさておき、どちらでもなかった。


「いいぜ、どこだよ。」


『こっちだ。』


 そのまま俺は自問自答の続きと思いながら立ち上がって声の方向へ歩き出す。左には学校のプールがあり、進む先には使われていないであろう、かつての焼却炉があってその奥に小さな祠があった。


「これか?」


『そうだ。』


 ご丁寧に返事をもらい、スマホのライトをつけると目の前に朱色の鞘の、大振りの刀があった。


「おいおい、こんなもん学校にあったらガキが大喜びだろうよ。」


『取れ。そして刀を抜け。』


 俺は何も疑わず興味本位で刀を手に取り、抜いた。


「うお、重。なんだこれ、本物か?」


『抜いた。抜いたな!それじゃあ貴様が今回の使い手だ!』


「は?」


 声は荘厳そうな声色から一瞬で喜色一編に変わる!そしてスマホのライトを打ち消す光が辺りに奔る!


「何だ!これ!」


『我の名は力戦一刀!さあ、神を目指すぞ!』


「はあ?わけわかんねえ事を…。」


 そしてその閃光が納まると同時に力が抜け、膝まづいてしまった。

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