第2話 スライム

 夢を見た。

 いつものようにダンジョンに潜り、魔物に傷を負われ、それでも一生懸命に魔石を手に入れて逃げる夢。

 俺には魔物は倒せない。

 だって、弱いから。

 

 はあはあ、と息を荒くしながら目を覚ますソウタ。


 夢か。


 目を覚まして、夢だということに気づいた。


「……これは夢じゃねえのか」


 目の前には六人の死体に、床は血で真っ赤に染まっていた。

 家の中にはただ生臭い、吐き気のする匂いが充満している。


「くううう」


 ソウタはジャンプをして笑顔になる。


「しゃあああ、親父が死んだ。死んだ、死んだ、死んだ、死んだあああ」


 ずっと殺したかった親父が死んだ。 

 自分の手で殺さなかったのが少し残念だが、いざ殺そうと思うと俺には殺さない存在だったわけだし、素直に喜ぶとしよう。


「これで俺は自由だあ。それに、なんかわかんねえけど、俺、死なねえ身体を手に入れちまったよ」


 あれ、俺無敵ってことはさ、もしかして最強なんじゃね?

 つーことは、女の子からモテモテ?

 ヤりまくりライフでも始まるんじゃねえのか?


「女の子は強い男が好きなんだよな、なら、俺みんなからモテモテじゃ〜ん」


 ニヤニヤが止まらないソウタ。


 父親が死んだ。

 五人、人を殺した。

 彼の頭にはそんなこと忘れてしまっているようだ。

 今あるのは、女の子とたくさんエッチしまくりという願望のみ。


 金属バットを片手に、ソウタは家を出た。

 向かうは、いつもの仕事場である、高野河ダンジョン。


「ここから、俺のダンジョン探索者人生が始まるんだよなあ。楽しみだぜ」



 高野河ダンジョンはF〜S級の危険度のうち、F級と一番危険度の低いダンジョンだ。

 だからといって、油断は禁物。

 普通に人がバンバンと死んでいるダンジョンである。

 ダンジョン内は整地されており、明かりもある。

 浅い層は狩り尽くされ、魔物や魔石がないため皆、深く潜る。


 キーン、という金属音が八層にて響き渡る。


「死ね死ね死ね死ね」


 金属バットを手に持つ少年──鴉宮ソウタがスライムを打ち飛ばしたことによる音だ。


 スライムの群れは、ソウタにかぶりつく。


「いてえ、いてえ、いてえ、いてえな!!」


 身体中にじんわりと頭が広がる。

 熱い。


「けど──ッ」


 ソウタは自身の身体に向かって、金属バットを思いっきり打ちつけた。


 身体中の骨が折れる音がする。

 同時に、スライムたちがぐちゃぐちゃに潰れていく。


 シュウウウ、と身体中の傷が一瞬にして治っていく。


「ふははは、俺は不死身だあああ」


 スライムの群れが、飛び上がり、


「あ?」


 姿を剣へと形を変えてソウタに向かって飛んでいく。


 グサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサ。


 スライムたちにより姿が見えないほどに剣が突き刺さるソウタ。


 手から金属バットを離す。


 カラン、という音が響き渡る。


 い、いたああああ。


「いてえ」


 壁に向かって身体中を打ちつけた。


「死ぬほど痛えんだよおおお、このクソやろー」


 バチバチバチバチ、とスライムたちがブドウのように潰れていく。


 どんなに不死身でも、痛覚はちゃんとある。

 それがうざい。


「この雑魚が、あまり調子に乗ってんじゃねえぞおおお!!」


 ソウタは暴れた。

 ただひたすら、目の前にあるスライムたちに向かって金属バットを振った。

 ぐちゃぐちゃに潰れていくスライムたちを見てソウタは感じる。

 生きている実感を。

 何よりも、生命というものの儚さを。

 そして、自分が死なない肉体を手に入れたことに対しての祝福を。


 この日、高野河ダンジョンからスライムは全滅したのであった。

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世界最弱のヒーラーダンジョン探索者、治癒魔法が覚醒した結果、不死身の肉体を手に入れる。なお、配信に映り込み、アンデッドと呼ばれているようですが、それ俺なんですけど…。 さい @Sai31

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