世界最弱のヒーラーダンジョン探索者、治癒魔法が覚醒した結果、不死身の肉体を手に入れる。なお、配信に映り込み、アンデッドと呼ばれているようですが、それ俺なんですけど…。

さい

第1話 不死身の肉体

 ダンジョン探索者。

 それは、最も危険で、最も栄光に満ちた職業である。

 古代の遺跡に眠る財宝を探し、封じられた魔物と対峙し、忘れ去られた世界の謎を解き明かす者たち。

 彼らは、誰も足を踏み入れたことのないダンジョンへと進み、無数の罠と怪物が潜む闇を切り裂く。

 しかし、探索者とはただの冒険者ではない。

 彼らは鋼の肉体を持つだけでなく、知恵と冷静さをも武器とする。

 目指すのは金銭や名声だけではない。

 彼らが追い求めるのは、まだ見ぬ世界の真理、そして人類の限界を超える力である。

 ダンジョンに足を踏み入れる者は命を賭ける。 

 だが、その先に待つのは、世界の誰もが手に入れることのできない無限の可能性である。

 今日もロマンを求めてダンジョン探索者たちはダンジョンに潜るのである!!



 鴉宮ソウタは高校には進学せず、中学卒業後、ダンジョン探索者として働いている十六歳の少年である。

 またの名を世界最弱のダンジョン探索者。

 彼が使えるのは回復魔法だけ。

 しかも、回復魔法はかすり傷を治せるくらいの治癒しかない。

 そのため、どのパーティーにも入団することができず、一人でダンジョンに潜りダンジョンにしか存在しない魔石と呼ばれる石を手に入れそれを売ることで生活している。

 ソウタには母や兄弟はいない。

 いるのは、アル中の家に篭りっぱなしの父親だけ。


「ソウタあ、これしか稼いできてねえのかあ?」


 リビングにて。

 ソウタの父親は手に持ったビール瓶をソウタに向かって投げつけた。

 ビール瓶はソウタの顔面にぶつかり、その場に倒れる。


「はあ、お前が女なら身体売って生活できたのによお」


 ぎゅっと、拳を作る。


 俺は親父が嫌いだ。

 早く死ねばいいのに、と思っている。

 

「誰のおかげでここで住んでいられてると思ってんだよ……」


 と、その時だった。


 ソウタの父親がビールを飲んだと同時に、


「え、なんだ? 顔が膨らむ……」


 パン!!


 銃声のような音と共に、顔面が弾け飛んだ。


 赤い液体が、ソウタの顔面にかかる。

 生温かくて、生臭い液体が。

 どこか生命を感じるこれが、血であることはすぐにわかった。


 え、何が起きた……?


「ソウマさん。あんたが悪いんですよお、いつまで経っても借金を払いやしねえんだから」


 背後から男性の声がした。


 すぐに誰だかわかった。


 ソウタの全身に恐怖が襲いかかる。


 ゾクゾクと震えだす。


 振り向くとそこには、五人組のスーツ姿の男性が立っていた。

 父親が多額の借金をしていたヤクザだ。

 リーダーと思われる男性の顔には全身を真っ黒にするほどのタトゥーが彫られていた。


 なぜだろう。

 自分も殺されるかもしれないというのに、気分がいい。

 ああ、そうか。


 ソウタはニヤける。


「なんだこのガキ、ニヤニヤして気持ち悪いな」


 死んだんだ。

 ずっと死んで欲しかった存在が。

 邪魔な存在が。

 自由になれるんだ。


「女なら価値があるが……死ね」


 男性はソウタの顔面を潰すような仕草をする。


 ぐにゃぐにゃ、と視覚が歪んでいく。


 ソウタの瞳からは涙が溢れ出す。


 あれ、なんで泣いてるんだ?

 悲しいからか?

 違う。

 嬉しいからだ。

 そして、せっかく嬉しくなったのに死んじまうからだ。


 父親同様、ソウタは顔が潰れ、その場に倒れた。


「任務完了だな」


 死んだ。

 これから俺の人生が始まると思ったのによお。

 ありゃ?

 てか、なんで生きてるんだ?


「な……」


 ヤクザのリーダーが口をポカンと開ける。


 死んだはずのソウタが無傷になっていたからだ。

 治癒魔法は死者を蘇生できない、はずのに……、


「なんで生きてんだよ」


 百歩譲って、顔が治るのはわかる。

 ただ、生き返るなど、


「ありえん」

「俺さ、俺にはちょー美人な母さんとちょー可愛い妹がいたんだ」

「ああ、知ってるさ。昔はあいつらの身体で借金を返済させてたからな」


 知っている。

 妹に関しては六歳から使われていた。


「このクソ親父が狂っちまったせいでよお、どっちも殺しちまってよお」

「ははは、本当にバカだよなそこにいる男は。せっかくの借金を返せる方法だったっつーのに、自分の手で無駄にしてよ」

「お前は俺が殺したかった相手を殺した。つまり……」


 ソウタは床に落ちたビール瓶を手に持ち、立ち上がって、ヤクザのリーダーに向かって歩き出す。


「おいおい、何する気だよ……死ね」


 またもや、手でソウタの顔を潰す仕草をする。

 一瞬にして潰れるが、すぐに顔は再生し、生命が復活する。


「な……どーなってんだよ。死ね」


 もう一度やるが、結果は同じ。

 

 あー、どうなってんだ。

 死んでも死んでも、意識が戻る。

 

「死ねよおおお」


 なんでか不死身になっちまったなあ。


「死ぬのは……」


 ソウタはヤクザのリーダーの顔に向かってビール瓶を振りかぶる。


「お、お前ら何立ったって見てるだけなんだよ、俺の援護をしろおおおおおおおお」


 バチゴーン、とヤクザのリーダーの首が360°回転した。


「ぎゃ、ぎゃあ……」


 と、絶命するヤクザのリーダー。


「さあて、次はよお、お前らぼったち四人組だああああ」


 慌てて銃を取り出し、ソウタに打つが、傷をつけてもすぐに回復されるしまつ。

 もう、彼を殺すことはできないのだと悟った。

 同時に、自分の死もみな悟るのだった。


 この時、ふとソウタは思うのであった。


 エッチがめちゃくちゃしてえな。


 と。

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