第4話 回想②
グランドスタッフが半券を機械に通して、「ようこそ」と告げる。
人々がどんどんと搭乗橋に吸い込まれてゆく。
流れに沿って歩く。機体のドアが見えて、そこで
私の席は、非常口の横。
折り畳みのテーブルはほかの席より小さいけれど別に不自由はないし、窓際でものびのびと足が延ばせて、トイレに立つとき誰にも気兼ねは無用。長距離のフライトでは、余分に料金を払ってもその席は私のお気に入り。
通路は乗り込んできた人たちでごった返す。バッグをイスの下に入れ込んでシートベルトを締め、小さな窓の外をぼんやりと見つめる。
ああ。私、本当にまたあの場所に行くのね。本当に、克服できたのかな?
隣の席と通路側の席には、オランダ人の老夫婦が座る。彼らは私に微笑んだ。私も微笑み返す。老年だけど、二人ともとても背が高い。話している言葉もオランダ語。彼らは息子夫婦へのお土産について話し合っている。もう5年もたつのにちゃんと聞き取れている自分に少し驚いてしまう。
扉が閉められる。CAが点検確認をして、
もう、戻れない。
今の私は、飛行機を怖がっている人に見えるかもしれない。
実際は、アムステルダムに行くことを怖がっている人だけど。
怖がっているのになぜ行くのか聞かれたら、前に進むためだと答えるでしょうね。過去を確認して、未来に進むために。
誰かのせいで去らざるを得なかった、大好きだった場所に。
私は浅く長く息を吐いて、目を閉じた。
✣✣––––––––––––––✣✣
そのカフェは旧市街地の観光スポットが集中している地区にあったので、日本語、オランダ語、フラマン語、英語が話せる私はオーナーに気に入られた。
「レイナの代わりと言わず、きみもずっと働いてくれるといいのに」
私は申し訳なさそうに肩をすくめた。
「祖父のホテルを手伝っているので、一週間だけ」
「残念だな。仕事は彼に聞いてくれ。おい、イザーク! ちょっと来てくれ!」
彼は外でパラソルを立てている青年を呼んだ。
オーナーに呼ばれてこちらを向いた彼は、たれ気味の青い瞳を私に向けた。明るい金の髪、真っ青な瞳。日本人の女の子が「王子サマ」と聞けば彼のような人を想像しそう。オランダ人らしく背がすごく高く均整の取れた男の子。
「前に話したろう? レイナの代わりに一週間だけ働いてくれる子だよ。仕事を教えてやってくれ」
ゆっくりと近づいてきた彼は、オーナーの言葉に右の眉を吊り上げた。それが承諾の意味だとは、あとでなんとなく知った。
そして彼は私に手を差し出した。
「イザークだ。よろしく」
私はその手を取った。
「エリカ。よろしくね」
大きな手。きれいな手。私たちは軽く握手した。
それが、彼との初めての出会い。
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