第43話 馬なし馬車

「賢者様!できたぞ!」


 目を真っ赤にしたガレオンさんが

 僕の寝ているキャンピングカーの扉を叩く。


「えー?」


 寝ぼけまなこで扉をあけると、


「賢者様!馬なし馬車じゃ!」


 

 きっかけは馬車の乗り心地改良だった。

 この世界の道路は土むき出しが多く、

 凸凹だ。

 馬車の乗り心地は最悪である。

 衝撃がもろにお尻にくる。

 クッションを敷いたぐらいではどうにもならない。


「ガレオンさん、こんなものをもってきたんだけど。参考になるかな?」


 僕のもってきたのは、エンジンぬきの軽四、

 そのサスペンション部分だ。

 廃車工場にあったものを譲ってもらったのだ。


 さすがに、軽四をまるっとはもってこられない。

 魔物化する可能性があるからだ。

 魔物化してもいいんだけど、分解したりするのは

 流石にちょっと拙い。



「ほう。これがさすぺんしょんというものか?」


「そうだよ。うちにいる機械系の亜魔物の足回りの元だね」


 僕の持ち込んだものは板バネと呼ばれるもの。

 暇さえあると、ドワーフたちが亜魔物の構造を

 調べ始めるため、

 とりあえず足回りだけでも、ともってきたのだ。


「なるほど、よく考えられているな」


 板バネの構造は難しくない。

 リバースエンジニアリングであっという間に

 コピー品を作り上げた。


 こういった機械系のスキルについては、

 ドワーフの技量の高さを思い知った。

 まるで工作機械のような精密さを

 ドワーフのスキルは達成しているのだ。

 

 技量が不足しているのなら、工作機械の転移も

 考えていたけど、不要だった。


 まあ、あくまで手工業になるから、

 大量生産をするならなんらかの機械化が

 必要なんだけど、

 それは工作機械魔導具を考案するということで。


 ◇


「儂はあの機械系モンスターの動力を調べたいんじゃが」


「いや、一応生物なんで、動力を調べるのはまだ拙いでしょ。下手すると、死んじゃうから」


 ガレオンさんが未だに不思議に思っているのは、

 日本から持ち込んで魔物化した機械だ。

 まあ、僕もなんだけど。


 ガレオンさんはそんな存在を初めて知って

 びっくりしていたが、

 そりゃ、この世界の人が知るはずがない。


 森の奥地でつかまえてきた、

 ということにしてるんだけど。

 ムリあるかな?


 ただ、エンジン魔導具はこの世界にほしいよね。

 だから、


「そのかわりに、こんなものもってきたよ」


 僕のもってきたのは、蒸気機関の設計図。

 ジェイムズ・ワットのものだ。

 いやあ、本当に産業革命だね。


「ふむふむ、これは水蒸気の力を動力としておるのか。その他にもいくつか新発見の機構があるの。こんな設計図をどこで手に入れたんじゃ?」


「それは内緒。実は、とある古代遺跡からの発掘品でね」


「ほう」


 ネットのものをプリントアウトしたんだけど。


「仕組みは理解した。一度、試作品を作ってみるか」


 ◇


「どうじゃ?」


 1週間ほどして、ガレオンさんは蒸気機関の

 試作品を作ってきた。

 ただし、エネルギーは魔法だ。

 火魔法で水蒸気を発生させている。

 だから、一応蒸気機関魔導具かな?


 そこから更に水蒸気じゃなくて

 爆発魔法を使ってピストンを動かすことを

 説明してみた。

 エンジンだよね。


「ほう、これがあの機械系モンスターの動力源の基本なのじゃな?」


「多分ね」


 それだけの説明だけでガレオンさんは

 エンジン魔導具の研究に取りかかった。

 試作品は次々とできてきて

 その開発速度に驚くことになった。



「エンジン魔導具はかなり洗練されてきたね。あとは、魔素集積魔導具だけだね」


「ああ。初めて機械系モンスターを見たときは驚いたが、なかでも魔素を集積する仕組みはさっぱりわからん」


 解決方法は、

 ジェネレーターを日本からいくつか持ち込むか、

 もしくは魔石を集めるか、の2択だ。

 当面は日本から持ち込むことにする。



「まだ、完全ではないが、ひとまずエンジン魔導具の完成じゃの


「じゃあ、さっそく客車につけて走らせてみましょう」


 ハンドル、ブレーキについても

 僕は図解でガレオンさんに提案してある。

 サスペンションは板バネですでに完成している。

 あとはエンジンを搭載するだけ、となっていた。



「おおお、動いた!」


 スピードは出せない。

 歩くような速さではあるものの、

 曲がりなりにも客車は動いたのだ。


「ガレオンさん、やりましたね」


「うむ、おかげさまで、というやつじゃの」


 ガレオンさんも嬉しそうだ。

 今後は速度をあげることともテーマであるけど、

 ブレーキ、ハンドリング、タイヤ、シートなど

 改良していく点はたくさんある。



 それと、馬車だけでは片手落ちで

 道路建設も重要な課題として上げられる。

 道路の整備は嫌がる支配者が多い。

 敵に攻められやすくなるからだ。


 当面は村周辺の農地めぐりのために

 道路整備をすることになるのだが。


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