第42話 酒につられてドワーフが
ガラスハウスなんだけど、
中で主に果物を栽培している。
そして、同じ品種を露地でも栽培している。
その露地栽培。
苦戦している品種が多い。
その中で飛躍的に成功しているのが梅。
というのか、プラムと呼んだほうがいいのか。
日本から持ってきたのは梅だったのだけど、
こちらに植えたら若干品種が変化したみたいだ。
甘くて少し酸っぱく、香りが非常にいい。
果汁も多くて食べやすい。
桃の香りを強くして少し酸っぱくした感じだ。
生食でもいけるけど、
これを使って醸造酒にチャレンジした。
難しくはない。
あらかじめプラムで発酵菌を育成。
それをプラムの絞り液に投入。
しばらく待機。
それだけで、香りの高いプラム酒ができた。
新鮮なプラムの香りと甘酸っぱい味わいが
とてもフルーティーだ。
勿論、品位が高くて大好評である。
生産量は多くないから村の内部で飲んでるだけ。
でも、評判だけは自然と村の外に広まっていったらしい。
「頼もー!」
ヒゲモジャ、短躯でダミ声の男が
しきりに村の入口で怒鳴っている。
「なんぞ、御用で?」
「こちらで、プラム酒なる高級酒があると聞いた。是非とも、試飲したい」
ああ、これで何人目だろう。
特にドワーフが多い。
うんざりして、
「もう、ありません」
「い、いや、そんなことはなかろう。わかっておる。門外不出であろう?そんなことは百も承知じゃ。じゃから儂も門外不出の技術を持ってきたわい。ちょっと相談させろ」
ここも今までのドワーフと同じ。
この種族は本当に粘り強い。
無碍にするのもなんなので、
「門外不出の技術?なんですか?」
「儂の名前はガレオンじゃ。鍛冶師の間ではそれなりに通っておる名じゃ。この技術を提供する」
ガレオンだって。
アランさん、知ってる?
「すまん、賢者様、横入りで。オレは元冒険者なんだが、冒険者の間でガレオンという名前は非常にしられているぞ」
これはブレーズさんだ。
ちょうど後ろを通りかかったみたいだ。
なんでも領都で武器製作の第一人者らしい。
「そんなに知られているのか?」
「ああ。何を隠そう、オレは彼から財産の大部分を
ブレーズさんが転落する前の最高潮のときの話だ。
少し因縁があるが、それは鍛冶師とは関係がない。
「へえ、じゃあちょっと話だけ聞いてみるか」
◇
「(うわっ、素晴らしい!)」
ガレオンさんの武器を見せてもらった。
あまりに凄いので彼の工房までお邪魔して、
刀をうつところを見せてもらったのだが、
工房の暑さ、ガレオンさんの熱気と真剣さ、
これが最高峰の職人なのか。
僕は感動してしまった。
「ガレオンさん、よくわかりました。ガレオンさんにはプラム酒以上の価値があります。つきましては」
僕はガレオンさんに蒸留酒の話を持ちかけた。
「なんじゃと?酒精の強い純粋な酒を作るだと?」
流石はドワーフ。
目がぎろりとこちらをむいた。
眼力が半端ない。
「ええ。酒精は限りなく99%にできますが、まあ常識的な範囲で40%前後になりますか」
「ほお。じゃあ、儂らが飲んでるワインとかの度数は?」
「食堂などで飲んでるやつは薄めてますから数%ですね。原酒は10数%でしょうか」
「ほう。そんな話聞いたらいても立ってもいられねえ。おい、儂はしばらくこの工房を開ける。おまえら、しっかり運営しとくんだぞ」
「え、親方、急に困ります!」
「バカヤロ!儂がいないだけで工房の回せない奴はクビじゃ!」
ということで、その日のうちに村にやってきた。
◇
「ふむふむ、これが蒸留器か」
「これは、花の香りを濃縮するためのものですね。酒の蒸留は少し考え方がちがいますが、似たような機材となります」
僕は蒸留の説明をする。
「なるほど。水とアルコールの気体になる温度差を利用する、と」
「どうですか、おおまかな設計図はあります。蒸留装置、作ってみますか?」
「おお、まかせろ!というか、俺以外にまかせるな!もちろん、魔法契約を結んでからだな。へへ、こりゃ、大変だ。1週間後に工房に来てくれ!」
◇
「どうだ!」
小さなグラスで出されたのはプラム酒の蒸留酒。
プラム酒のなんとも言えない芳香が辺りに漂う。
「素晴らしい!」
試作品から正解を出してきた。
「あとは熟成ですね。角がとれて、ずっとまろやかで芳醇な酒になるんじゃないですか」
「熟成か。どの程度必要なのじゃ?」
「うーん、正解はないかもしれません。やってみないとわからんですね」
といいつつ、僕は魔法が発現するのを感じた。
「ガレオンさん、僕には熟成魔法があります」
「ほお。なら、やってみて欲しい」
「時間をかけた熟成よりは良くないかもしれませんが……」
熟成には数分の時間が必要だった。
「どうですか」
僕達は二人で飲んでみた。
「おお、これが同じ酒か?角がとれたのは勿論、深いコクと品格のあるプラムの香り。素晴らしいな」
「多分ですが、3年熟成と同等程度でしょうか」
「これで3年か。じゃあ期間を長くすればもっとよくなるのか?」
「うーん、やってみないとなんとも。文献では、50年とか100年熟成の酒もかつてはあったそうです」
「ほう。古代の話なんだろうが、もうそうなると神に捧げる酒だな。よっしゃ、なあ、相談だが、工房を村に作れんか?」
「そりゃ、来てくれれば嬉しいですけど、お客さん、来ませんよ?来ても村に入れないかもしれませんが」
「ふむ。儂だけなら問題ないが、こいつらがいるからな……よし、ドーダン、おまえがこの工房の責任者じゃ。儂は顧問ということで、なんかあったら村の方に来い。で、どうじゃ?」
「親方、かまいやしませんが、なんか話を聞いていると酒がらみですね?」
「うむ」
「それは殺生ってもんですぜ?俺もいきやす」
「オレも」「俺も」「儂も」
「あー、うるせえ。全員が村に行ってしまったら、この街が困る。わかったわ、こうしよう。少しずつ入れ替えていこう。向こうで数ヶ月、そしたらこちらで数ヶ月、みたいにな。なに、酒は逃げん。酒はちゃんとこちらにも回してやる。ドーダンたち、それでどうだ?」
「おおお!」
「なあ、勝手に決めちまったが、それでどうだ、賢者様」
「ああ、構いませんよ、というか、ガレオンさんたちが良ければ、願ったりかなったりですね。実は、酒だけじゃないんですよ。きっと鍛冶師魂が震えるような発想をお届けできますよ」
「ほお。儂に向かってその挑戦状。受けようじゃねえか!」
◇
こうして始まった酒の生産。
果実・穀物はいろいろある。
片っ端から醸造酒にする。
そして、評判のいいものを
やはり片っ端から蒸留酒にしてみる。
数カ月後、
「ちょっと手を広げすぎたかなあ」
醸造酒に関しては、
果実酒は、梅酒、ぶどう酒、りんご酒程度だ。
穀物は、大麦(エール)、ライ麦酒だ。
そのうち、ぶどう酒とエールはギルドがある。
というか、教会が独占している。
だから、外には出せない。
じゃあ、他の酒が出せるのか、と言えば、
生産者がいないし当然ギルドもない。
しかし、酒関係ギルドが騒ぐかもしれない。
自分たちの市場が圧迫されるかもしれないからだ。
もっとも、外に出すほどの生産量は確保できない。
しばらくの間は、村の中でまわすのみだ。
ガレオンさんの嬉しい悲鳴は酒だけに留まらなかった。
僕はガレオンさんに様々な魔導具を提案していった。
その話を聞くたびにガレオンさんは目を輝かせた。
その輝きは周りのドワーフも同様だった。
彼らの労働はデスマーチになりかかっため、
僕からの強い要望で対処することを命じた。
結局、ガレオンさんの工房を他のドワーフに譲り
人員を全員こちらに連れてきた。
さらに人員の増強を考えているみたいだ。
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