第41話 続々と集まり始める人々2

「賢者様、珍しくお怒りで」


「いや、あんな態度ないでしょ」


「いや、普通の態度だでなあ」


 ああ、感覚が僕と違いすぎる。


「つまり、貴族っていうだけであんな傲慢がまかり通ると?」


「貴族は我々と違って強い魔法力を持ちますから……」


 魔法を持つことは王国では重要なことだという。

 そして、貴族が貴族たらしめているのは、

 強い魔法。

 強い魔法をもった貴族、というだけで、

 庶民はへりくだってしまうんだという。


「で、どうするの?」


 僕はかなりモヤモヤとしつつも

 いったんは怒りを引っ込めた。


「決まりによれば、アルシェ村もどこかの領に仕えてそこで村の代表者が准騎士に陞爵することになるんだけんど」


「いやあ、正直メリットないかなって思ってます」


「アランさん、そうなんですか?」


「ええ。税はないですが、そのかわりこき使われるんですよ。兵士としては勿論、やれ、川の改修だ、館の工事だ、村の仕事もままならなくなります」


「では、断りますか?」


「となると、どんな反応が返ってくるやら」


 ベーグル領主は非常に評判が悪いらしい。

 王国一の重税。

 傲慢、横柄の見本。

 その子弟も最悪。

 領民の女を娼婦と勘違いしている。

 噂だが、奴隷商売に手を付けている。

  


「ルシール、これか、女神様が支配者が最悪とか言ってたのは」


『ですね。特にこの領主は酷いようですが』


「どうすればいい?」


『マスターに従います』


「女神様も懲らしめてやれ、みたいなこと言ってたよな。じゃあさ、ルシール、領主の悪行を暴けるか?勿論、証拠付きで」


『ええ、腕がなりますな。久しぶりに私の潜入スキル、発揮しますか』


 ◇


 出るわ、出るわ。

 領主の悪行。

 ルシールはこうした秘密っぽいスキルが充実しているらしい。

 気配遮断、隠密行動、ステルス、動画撮影、録音、

 その他。


「噂になってた奴隷販売。領主が中心になってるのか」


『ですね。領主の地下にさらってきた子供とかが何人かいました』


「許せんな。あと、領民の女を見境なく追いかけ回しているんだって?」


『それは領民が対策を立てていまして。まあ、大事にはなっていないようです』


「子弟の横暴もあるのか」


『ミニ領主、といったところですね』


「それから、領主妻の浪費」


『凄まじいです。夫の女遊びを容認するかわり、お金を使いまくっています。それこそ、奴隷販売利益を使い尽くすくらいに』


「問題ないよな?」


『ですね。文句なくギルティ』


 ◇


「なんだ、外の騒ぎは」


「ご主人様、誘拐してきた子供を返せって大騒ぎしています」


「はあ?何を馬鹿なことを(どこで漏れたんだ?)」


 僕は誘拐事実をビラにして領内にばらまいた。


 ビラには領主の館地下の秘密の牢屋で

 子供たちが泣いている画像を貼り付けてある。

 キャプション及び解説とともに。


『領主の奴隷販売の実態』

 

 と。

 まあ、この世界ではかなりチートなビラだが。

 文明の利器をこちらに持ち込んでの力技だ。


 怒り狂った民衆は手に松明、武器、農具を持って

 領主館に殺到していた。


 その数、数千。


「衛兵は何をしておる!追っ払わんか!いや、私が奴らを火だるまにしてやる」


 領主は火魔法のオーソリティであった。

 戦場では『黒炎魔導士』として恐れられている。


「おまえら!領主に逆らうとはなんたる反逆罪!死刑にふさわしい!焼き尽くしてやる!覚悟しろ!」


 領主は長々と詠唱を始めた。


「ブラックフレイム!」


 このブラックフレイムこそ、

 ベーグル領主が黒炎魔導士と呼ばれる理由だ。

 凶悪な黒い炎が特徴で広範囲な敵の中を荒れ狂う。

 数年前など、この魔法一発で

 数千からなる敵軍を壊滅させた。


「あれ?」


 しかし、魔法は発動されなかった。


「し、し、しからば!クリメイションテンプル!あれ?」


 一向に火魔法が発現しない領主。


「ああああ、なんだこれ!私のスキルが消えてなくなっているぞ!」


 領主は自分のステータスを開いたようだ。

 これは僕のスキルブロック。

 相手のスキルや特技を消してしまう大技で、

 女神様から授かった技だ。



 では、次は僕の番だな。


「ディスウォール!」


 壁を消し去る土魔法だ。


「おお、塀や外壁が消え去ったぞ!みんな、子供たちを救出するぞ!領主を吊るし上げろ!」


「おおおお!」


 ◇


 子供たちは無事救出された。

 今までに売り払われた人々は

 領主の財産を持って買い戻された。

 奴隷は王国では認められているが、

 それはあくまで法律の範囲内での話。

 誘拐して奴隷として売り払うなど

 凶悪犯罪である。

 火炙りの刑がふさわしい。


 もう、こうなるとお祭りだ。

 法律の制御がきかない。

 領主は王都にしょっぴかれ火炙りとされるのだが、

 納得できない領民は護送団を襲撃。


 もっとも、襲撃を予想していた護送団は

 端から対抗する気はなく、

 領民の殺到を離れたところで白けて見ていた。


「バカモノ!私を助けんか!おまえら、私を王都に連れて行く義務があるのだぞ!私の無実はそこで証明される!早く助けん……ウワー」


 領主は領民にとっつかまり、

 拷問を受け、最後は広場の火炙りの台に。


 子弟と妻は追放された。

 ちなみに、子弟のスキルも消し去られた。

 浪費家の妻も行く末は誰の目にも明らかであった。



 ベーグル領は大混乱に陥った。

 本来であれば、隣領や王家が中心となって

 立て直すのかもしれない。


 しかし、及び腰になった。

 ベーグル伯爵は性格はともかく、

 武人としては王国有数の力を持つ。

 それが、なんの抵抗もできずに敗れたと聞く。

 そんなにべーブル領の一揆勢は強いのか。


 彼らがもたもたしている間に

 領内で実権を握ったのが商人ギルドだ。

 臨時評議会という組織を立て上げ、

 素早く荒れ狂う領内を治めていった。


 王家もこの勢いを無視できず、

 ベーグル領を臨時評議会による自治領と認めた。

 王国ではすでにこの形態の領が

 いくつかあったのだ。


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